企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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振り向かない彼女は、いつもこちらのことなんてお構いナシで突っ走っていく。
そういうところが好きなのだが、実に心配になる。
伝えることも出来るだろうが、きっとまた走っていってしまうだろう。
そういう性分なのだと周りもわかっているからこそ、背中はがら空きで先行していく。


日本ではそれを猪突猛進というらしい。
確かに彼女は戦闘力も高く、ザップとはいいコンビだ。
たまにその姿を見ると胸の奥ががもやりと、くゆるのである。
その意味を、理由を知ったのはつい最近の話だ。
自分では気づくことが出来ず、レオナルドに指摘されてやっと今までの彼女に対する心の起伏の原因が判明したくらいだ。



「アレ? クラウスさん、ノーナさんのこと、好きなんすよね?」



「…む?」



「え。あれ? …えと、もしかして、クラウスさん、じぶんで気づいてなかったんすか?」



最初は、一瞬の間が空き、確認のためにおずおずと聞いてきた言葉で、はたと思い至った。
すとん、と落ちてきた言葉は、ああ、そうだったのか。と納得するに足るものであったのだと。
胸の奥が、じんと暖かくなった感覚に、これが焦がれることなのだと気がついたのだ。





「クラウスの兄(あん)ちゃんは、強いよねぇ」
「そうかね?」
「強い、というか、実際の話だけど。血界の眷属を封印できるのってこのライブラじゃ兄ちゃんだけじゃん?」
「む…、確かにそうだが、周りの尽力なくしてそこに至る事はできない」
「そーゆーとこも。やっぱリーダーだなぁって思うよ。オレはね?」



ふふ、と乱暴な言葉を使い、無邪気に笑う彼女は直ぐ傍で見ていて少しばかり心が落ち着かなくなる。
彼女に褒められると、どこかくすぐったく感じる。そわそわ。と。



「だから、オレも安心してココに帰ってこれるんだよ。兄ちゃん」



わたしだから、先行していける。
それは、信頼の証。とても誇らしいことだ。



【帰巣本能】
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