企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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一度ミシェーラから離れてしまえばこっちのもんで、ホマレの部屋で世話になることにした、
留守を預かっていれば、まぁーヤニ臭い褐色男が訪問してきてババアにゃ用はねえ!とか叫ばれた。
蹴り飛ばしてやったら白目向いて、ホマレが帰ってきたら悲鳴を上げた。
いみがわからんだろうが、恐ろしいことに宿泊初日の出来事である。
あまりに気絶していたので大事なところを蹴り上げれば、軽く半日気絶。
何度か彼の電話が鳴っていて、ホマレが大急ぎで対応していた。
めちゃくちゃ謝っていて、どういうことだ?と首をかしげた。
「…ノーナって、えげつないことするよね!」
「初めて会って、ババアとかいわれりゃそらキレるっしょ」
「…それはザップさんが悪い。けどトドメさすのはどうかとおもうんだ」
「ああ、そうか!」
HLで絡んでるのが異界存在の比率高めだったせいか、気つけでやっていた所業が人間と=じゃないことを今更ながら思い出した。
けど、後悔はしていない。
しかしその姿勢がすぐさま彼女にバレ、今度したら追い出すかんね?!と言われた。
そのやり取りを聞いていたザップという褐色男にプクスー!と笑われ、こぶしを握った瞬間、ホマレに睨まれた。
ごめんて。
そのやりとりで気がついたが、この男、新聞会社で働くような性格ではない。
ってことはだ、彼女のしているもうひとつの仕事先の、人間ということ。
だが、性別を隠しているにしては、やけに扱い方が男へのそれではないあたり、この子はバレているんじゃないかと疑うようになった。
実際バレていた。
天然か!
そして一週間、ホマレのススメで別の仕事での同僚が働いているバイト先、というのを紹介された。
みんな大好きピザ屋である。
「わたし、そんなにピザ好きじゃないんだけどね。むしろパスタのほうg」
「私の部屋狭いし、ちゃんと自分で短期でも住める場所探すってノーナが言うから一時的に泊めてるだけですからね?」
「はい、すみませんでした」
ええ、マジメに働きましたとも!
さすがにそのバイトだけじゃ生活費だけでなく、泊めてもらってるお礼代としては少ない気がしたので、雑貨屋のアルバイトも入れた。
ヘルサレムズ・ロットの雑貨屋は、割と退廃的なものよりつるんとしたデザインが好まれているらしい。
特に異界存在の男性のお客が多い。
理由を聞けば、観賞用、恋人へのプレゼントなどが主。そして意外にも、お土産として買っていく客が多かった。
あちらではつるんとしたものよりごつごつしたものが多いのだとか。
「特にあっちからの輸入品だけどこういうのは安定して売れてるねぇ」
「これ、こちら側のじゃないんですか?」
見せられたのは小さいスノードーム。
中にはHLを模した街が入っている。
「そうなんだけどねー。ちょっと違うんだよー」
店長がそこまで話したところで、いつもの常連、巨乳にスーツのお嬢さんがやってきたためこの話は中断となってしまった。
そうして一ヶ月、やっとこさ自分の住処をゲットした私は世話になったホマレの部屋を後にした。
たくさんのお礼と、バイト先で購入した素敵な腕時計をプレゼントとして押し付けた。
そんな落ち着いた頃、一枚の手紙が届いた。
差出人は、ミシェーラ・ウォッチ。
全文点字、ということは彼女ががんばって創ってくれたということだ。
内容を確認すれば、こちらを気にかけるもので、近況がつづられている。
そこにはあちこちの親戚に挨拶をしてまわっていること、残すは連絡がつかない兄だけになっているということ。
そして最後に一文、見えるか見えないかの凹凸で一文。
『兄をよろしくおねがいします』
最後に会ったあの空港で渡した点字の手紙の意味は、『兄に接触して、距離を保ちながら待ってる』を省略したものだ。
以前、彼女から手紙を貰ったとき、短い文章ではあったが、今後のことを考えた内容がつづられていた。
・いつかは兄に彼を会わせないといけない
・それはもう少し落ち着いてから
・もっと貴女と仲良くなりたい
簡単に書けばこういう内容ではあった。
けれど、初対面から、なにか様子がおかしいと私が察知していたのをいち早く見抜いた彼女なら、どう書くかと考えれば、考えすぎかもしれないがこうも解釈できた。
・ここでの彼はガミモヅのこと、つまり彼を兄、レオナルドに会わせたいということ。
・しかし直ぐにだとガミモヅにその計画がばれてしまう。なので落ち着いてから。
・貴女を信用したい。
ココから導き出す答えは、貴女を信用して、ガミモヅをなんとかしたい。
動けない私の変わりに、兄をよろしくおねがいします、と。
そして、彼女からの点字手紙の最後がその薄い言葉で締めくくられたということは、期は熟したということだ。
【スノードーム4】