企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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「おーっす、二日酔い馬鹿一人に巻き込まれた可愛そうな一人と一匹ぃ〜。こわぁい番頭様直々のお達しで事務長の私が出てきてやったんだぞ〜感謝しやがれぇい」
バタムとその可愛そうな一人であるレオナルドの部屋を蹴破って突破すれば、埃が舞って室内はなんも見えやし無かった。
確か部屋の構造は玄関と風呂と一間の寝室だけだったはずである。
そりゃ、部屋中煙が立ち込めて当たり前か。
とりあえずそのまま窓を開けるために部屋へと踏み込み、小さな窓をピシャンと開ければ、勢いがよすぎてガラスが割れた。
あ、下に落ちて誰かに刺さったくさい。
悲鳴だわ、悲鳴。ごめんよ、レオナルド。
窓が開放されれば、その埃も外気に吸われるように消えてゆく。
もうもうと外へと。
この間、三十秒ほどだろうか。
レオナルド、部屋の掃除くらいはしようぜ?
50秒くらいは息とめてられるけど、さすがに20秒近く埃が部屋から全部出ていかないなんて、なかなか無いんだから。
「ぱはぁっ」
とめていた息を吸い直し、すぅうっと整える。
一分もしない出来事だったが、咳き込む声すら聞こえないことに若干の違和感。
まず、大声で進入したのだからその一撃で起きてしかるべきである。
振り返ってみれば、そこには大人三人分の身体はどこにもなく。
こぢんまりとした三人のお子様たちがベッドの上でガタガタとお互いを抱き合って震えながらこちらをみていた。
【銀猫様とお子様たち】
「あ…あ…。」
「な…」
「ふぇっ…」
それぞれが悲鳴にも似た声を小さく上げていて、何だこいつらとかなり本気で思った。
三人というのには少しばかり齟齬がある。
明らかに人間そうじゃないのが一匹。
「…お前ら、どうしたん」
その一匹のおかげで残り二人の存在が誰なのか、判別がついた。
銀髪の褐色肌(だぼついた短パンによれよれのでかいTシャツ)
茶黒い髪は癖っ毛のようにハネハネ(同じような格好)
ツェッド(をお子様にしたというしかない姿。服装までなんにも変わっていない)
何度か目を瞬いて、たずねれば、ひいっとレオナルド(チビ)が悲鳴を上げた。
そんなにあたしは怖いかよ。おい。
「あ、あ、あ、あのっ」
「ん、ツェッド。状況説明できるの?」
まるで先生に質問するように手を上げる推定12歳ほどの身長体型の魚人、ツェッド(チビ)。
あたしは先生じゃない。事務長だ。
確認できることならば説明を聞いておきたい。
主に一番冷静な説明をくれるのはレオかツェッドくらいなもんで、現状レオが一番チビすけなのであてにならん。
ここまでおびえてしまっていれば、会話も慣れるまでは難しいかもしれない。
そういうわけでここ一番の魚材?、ツェッドのその挙手に応じることとした。
「…れおくんは、わるくないんですっ」
あ、だめだ。こいつはまずかわいい先輩のフォローからはじめてしまった。
いや、ここは流石と褒めるべきトコなのだろうけれど、状況説明もとめてる相手にこの対応は。
ガキだもんな!しょうがないもんな!
「それはよぉっくわかってる。そこでガクブル震えたまま青ざめてるクソチビ猿の顔見なくても分かってたわ」
「ざっぷくんがめずらしくじょうきげんで「さけのもうぜぇ〜」とかたずねてきたときからおかしいなぁっておもってたんだよう〜…!!」
「ソレは実に怪しい行動だね。そんなことがあったのならまず、あたしに報告すべきだったね?」
「ノーナおねえちゃんこわいもん…」
恐いからって報告しない阿呆がおりますかね。
っていまおねえちゃんって言ったか。この義眼のチビ。
「まって、レオ、いまなんて言った。おねえちゃん…?!」
「ぅえっ…?! ぼく、いまノーナおねえちゃ…ふえええええ?!」
言ってる本人が現在驚いている模様。
意識ナシということは、なんとかさん、という敬称が強制的に相手に応じて変換されそれを発言させられているということ、か?
わたしならノーナさんになるところが、おねえちゃん、がつく。と。
そういえばザップさん、と言うべき所をざっぷくんとつけていたな?
おにいちゃんじゃないということは、…そういうことだな?
「れ、れおくんっ、おちついてっ…!」
「つぇっどにいちゃん…ふぇぅ…どうしよおーーーー!!」
…地味にこのザップとの格差が出てる感じ、すごくいい気味だわ。
と内心ほくそ笑みながら、にいちゃん呼びされたツェッドが驚きと気恥ずかしさで蒸し魚状態になっているあたり、この一人と一匹の混乱具合は相当である。
とりあえず自然に落ち着くのを待つために諸悪の根源と話をすることにした。
クソチビ猿、ザップである。
おびえはしているが、その目は反抗してやるぞって気持ちがありありと読み取れる。
ちったあ反省しろ。
「で、若返り?コドモになっちゃうお薬の試薬でお金稼ぎってとこ? チビ猿」
「どういうくすりか、きかないのがじょうけんだったんだよ。っけ」
「あんた、どういう目にあってもそういうクズな性格は直んないのねぇ。このドクズ」
「…べつにしぬわけじゃないだろ、がっ…!」
阿呆なことをぬかすチビクズの真横に、寸止めの蹴り。
一瞬のひるみからの回避。
遅い。これが師匠の一番弟子を名乗る天才の動きかよ。
身体能力まで落とされているということはこれで理解できた。
さて、ソレとは別に、お灸を据えねばならないわけだ。
「あんた一人が死ぬのなら、問題ないわ。けど、将来有望な弟弟子に、世界にのどから手が出るほど欲されている眼を持つ優秀な一般人まで巻き添えにされるのは、ほんっと困るの。」
「しにゃしないって、いわれげぶっ」
「あんた、バカだけど、そういう言葉の真意を読み取れる位は天才だとは思うけど、それでもし、騙されていたのだとしたら。どうしてたのよ」
「おれは! でぇじょうぶだとっっごふっ」
ぐりぐりとたたきのめしながら、チビ猿の言い分をとりあえず、聞いてやる。
こいつの大丈夫、は一人のときは安心できないが、仲間を巻き込んでる間は、実際問題が起こったことは無い。
張っ倒した後に頭を踏みつけ、その言葉を最後まで聞かずに遮りながら、そんなことを考える。
わかっちゃいるが、もしものことがあったとき。
「ぜってーなかせるようなことは、しねーよ。ぎんねこのねーちゃん」
しれっと殴られた顔で、蹴り抉られた顔で、そんなことを言ってのける。
こいつのねーちゃんだが、ねーちゃん呼ばわりされる筋合いは微塵もねえよ。
まじ死なないかな、この愚弟。
「一人と一匹については泣くかもしれんが、血のつながっとらんお前が死のうがいなくなろうが、ねえよ」
(銀猫のババアと言いたかったのだろうから、殊更死ね)
(違うっつっても、きかねーんだろうなーこの女)