企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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「師匠(せんせい)、飲み物入りました」

「ん、おお。ノーナ…きみか。…ん、んん。すこし寝すぎたか?」

「お疲れのようでしたので、お声はかけなかったのですが、何かご予定でもありましたか?」

「いや…、あー。ああー…大丈夫だろう。どうせあっちから連絡が来る」

「…スターフェイズ氏が可愛そうです」




呆れ顔でローテーブルに、いつも私が使うマグカップを置く少女。
その中身は暖かいコーヒーである。
寝起きはあまりすっきりしないため、助手である彼女に淹れて貰っているのだ。

ノーナ・フェレアードは吸血鬼対策専門家である私の助手だ。
まもなく20というまだ若い彼女が、ふた回りほど歳が離れている私の下でなぜ働いているのかと言えば、そういう慣わしだからである。
彼女の家系、フェレアード家は代々吸血鬼に対峙すべく日々飛び回っている牙狩りの補佐を担っている。
戦闘能力が低いため、基本的にはオペレートの役割が多いのだが、近年子供も減少し、現在彼女の家は人手が足りない。
最年少の彼女はまだ勉強の途中だが、その人手不足解消のために現場は難しいにしろ、なにかしら身につくであろう私の下へとやってきた。

それが五年前の話である。


彼女は私にかけられた呪いをものともせず忍耐強く手伝ってくれる、稀有な存在だ。
普段から救急セットを持ち歩き、なにかあれば自分で処置できてしまう。

戦闘能力が著しく低い彼女は、その反面とても身体が丈夫である。
大怪我になりかねない事故が起こってもかすり傷程度でけろりとしているのである。

牙狩りから独立したクラウスのいるライブラに、再生者のギルベルトさんはいるが、彼女は再生はしない。


とにかく硬い、それが彼女の一番のとりえであり、私の隣でいつも呆れた顔をしていられる最大の理由なのだ。



「そうか、もうきみが私のところにきてから五年も経ったのか」

「なんですか、突然」


何かよからぬことをたくらんでいるのではと思っていそうな疑いのまなざしを向けられれば、自身が常日頃から感覚だけで動いているのを痛感する。
ソレほどまでに信用が無いのか…。


「いや、きみもいい年頃じゃないか。男の一人や二人、侍らしてないのかい?」

「なにいってんですか。師匠。いつも師匠の部屋に居るのでそういう影すら作れませんけど」

「…む。ならば休みをやろう。羽根を伸ばしてくるといいさ」

「目を離すとまーたなにかやらかすのは目に見えてます。後始末出来ない規模の事件起こされちゃ叶わないのでお休みはいりません」


信用されてねーなーとのんきにこぼせば、本人はズズズと紅茶を啜り、信用してるから、心配になるんでしょうに。とため息を吐いた。
しかしなぁ、と食い下がれば、くどいですよ。と釘を刺される。アイテテテ


そうして彼女は黙って再び紅茶の入ったカップに口をつける。

綺麗な曲線を描く唇は、化粧っ気がないのに、ルージュを引いたように赤みを帯びている。
肌は白く、頬には薄いそばかす。目元に治りかけのにきび。


よくよく見ればノーナの顔立ちは垢抜けてはいないがそこに魅力を感じた。
綺麗過ぎず、可愛いというわけでもない。
傍から見ればごくごく平凡そうな少女。


彼女を眺めていれば、こちらに目線だけをよこし、怪訝そうに眉をひそめた。
なんですか…?といいたげだ。
改めて考えてみれば、こんなに歳が離れているのに、よくもまあおっさんの地味な仕事を手伝うと言い出したもんだ。




「そんなんじゃ、お嫁の貰い手なくなっちまうぜー?」

「じゃあそのときは師匠がもらってくれますか」


「ぶふーーーーーーっ!!!」

「師匠、コーヒー吹き出すとか古くないですか」




【助手と告白】



(むちゃ言うんじゃねーよ! ふたまわりも離れてるんだぞ?!)

(研究者に年齢など関係ないと言ったのはミスタエイブラムス、師匠ですよ?)

(研究者とはまた違うだろ!)
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