企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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「ねえ、フェムト」




それはちょっとしたもしもの話。
もしも、このまま記憶を消さずにここにとどまるとしたら。
科学者相手に、なんて話をしているんだと思いはする。
それは、いつかの私とフェムトの埋まらなかった溝を、自身が埋めたいという想いがあったのだとおもう。


「馬鹿なことを聞くな?きみは」

「で…デスヨネー…」


あっさりとそんなリアクションを返されれば、半目になってため息をおとすしかない。
自分でも、分かっていたことだ。
だが今日のフェムトはヒマだったのか、そこから更に言葉を続けた。


「それは、きみの気持ちの整理も兼ねてるのか?」

「…まぁ。記憶を消すんだから、なんか、しこりが残ったままなのはちょっと…」

「それこそ、記憶を消してしまえば君はなにも心配する必要は無いではないか」

「いや、自分のことだけじゃなくって、」

「…僕を心配すると? っは、愚問だな」


背を向けたままそんな言葉が返ってくれば、表情が見えない分、信憑性は皆無だ。
とつとつとつ、と歩きフェムトの前に立てば、若干不機嫌そうな口元の男が居た。
顔は見えずと、口元の表現が豊かなフェムトのことだ、慣れればたやすい。


「どの口がそんな言葉を発せれるのでしょうかね?」

「…きみってやつは、そう、どうして人の心情を暴きたがるんだ」

「好きな人の気持ちは、知りたくなるんだよ」


そう素直に伝えれば、口をへの字にして、何かをこらえるような動きを見せた。
表現としては、ぐぐぐといったかんじだろうか。
その表情だけで割かし私は満足してしまっていた。
どんなもしもの話をしようとも、彼のその反応を見れただけで少しは心情を垣間見ることが出来るからだ。


「…僕は、」

「あれは、起こるべくして起こったことだったんじゃないかな」


だから、もう彼のそれ以上の話は必要ない。
救えなかっただなんて、らしくない言葉は、彼から聞きたくは無かった。あれは私に落ち度があった。


「結果として、魔女を眠らせることが出来たんだから、それでいいのよ」



彼女は、本来は既に眠りについているはずの存在だったのだから。
それを覚えているのは、私くらいだろうけれど。


彼女と同じ永遠の中で、これから私は記憶を沈めることだろう。
二度と浮かび上がることがない、夢の中に。
だからこそ、この世界に来てはじめての恋情を抱いた相手に、その想いを伝える必要はあった。


記憶を失った後は、わたしという人間は、スティーブンさんに惹かれる事だろう。
それは偶然ではなく、必然だ。
だからこそ、フェムトに、最後の言葉を告げなければならない。



「ねえ、フェムト」

「今度はなんだい?」

「好きだよ」




しばらくの沈黙、何か考えているらしき口元。
私は彼の言葉を待った。






「ああ、私もだよ、シノブ」




【彼女と同じ永遠で…】




(さよなら、なんて言わないところがキミらしいな)
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