企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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「オズマルドさん。」

「ああ、お別れだ」



約束は、果たされてしまった。
僕は、もともと目の前に居る少女と対峙する存在だ。
いまも、そうだ。
けれど、彼女はそれを望まず共に生きたいとあの日願った。

僕も、楽しみのための闘いは好むが、殺しは求めない異端だ。

彼女も。


偶然彼女が、このオズマルドの本体を殺してしまった瞬間に出会ってしまったのが、ものの発端だった。
無かったことにするために僕はその死体を着た。
そうして血界の眷属である僕と、牙狩りの血を持つ少女、ノーナ・W・ラジェストリの不思議な共生生活が始まった。


富豪オズマルドと、その養女ノーナ。

それが僕らの表での姿となった。


功績を重ね、拳を使えばあっさりと道は開けた。
闘える場があると聞いて地下闘技場へいけば、いつの間にやらオーナーをも倒し次代のオーナー権を手に入れていた。
そののし上がりを一番近くで見ていた彼女は、驚きはしたが、嫌な顔はしなかった。


「おじ様」


ある日、アルバイトをしたいとノーナは言ってきた。
地下に居続けるのは、自分の能力としては、ツライと。


だが、数ヶ月して、その仕事をやめたのかしばらく外に出なくなった。
その様子がおかしいと気がついていたので、何も言わないまま一週間すぎたあたりで問い詰めることとなった。


同胞とエンカウントした。らしい。
あちらは気がついていない様だが、連絡先を教えてくれだの外で会わないかだの言い寄られていて、いつ自身が同類だと勘付かれるか怖くなった、ということだった。
ならば、と僕の手の届く範囲の店へアルバイトに行かせることにした。
しかしその男は再び探り当ててきた、と。

男について調べさせれば、系列の金貸し業に手を出している常習犯ということが判明した。
彼女の同類、ということは上にはとてつもない人物もいる可能性がある。
それは、とてものどから手が出るほどにほしい機会だ。

珍しく困る彼女も放っては置けない。

牙狩りには戻りたくない、と泣きながらに懇願してきた一年前の出会いのとき同様、どこか競り上がる想いも少なからずあった。




結果として、牙狩りの一員であり、秘密結社ライブラの長、滅獄の力を持つクラウス・V・ラインヘルツとの闘いが実現した。
実に満足のいく戦いであった。
しかし誤算もあった。
彼は僕のオズマルドとしての身体を吹っ飛ばしてしまい、既に死体であるオズマルドは粉砕。
血界の眷属としての僕が、露見する形となってしまった。


僕は誰かを殺すという行為はしない主義だ。
だから、闘技場から姿を消すという方法で、彼との直接対峙を避けることにした。
幸いにも、僕のパワーは彼を上回っていた様で、無事に脱出が叶ったというわけである。


そうして何か起こったときのために用意しておいた屋敷に入れば、既に我が養女であり共生の誓いを立てた少女、ノーナが玄関先の階段で待っていた。




「君のおかげで、実に楽しい人間としての生活を送ることが出来たよ」

「…行っちゃうの?」

「そんな切なそうな顔をしないでくれよ。二人で決めたことだったろう?」


ぺた。ペタ、と眷属の姿のまま彼女に近づく僕。
それを受け入れるようにこちらに向き直ったまま動こうとはしない。
その顔は、涙目で、今にも泣き出してしまいそうな、そんな表情。
畏怖の感情は感じられない。


「…うん」

「なら、笑顔で送ってくれよ」


にま、と不敵に笑って見せるが、彼女の表情が晴れることは無い。
いつからか、気づけば、彼女から父に向けるようなまなざしと、異性に向ける眼差しの両方を感じるようになっていた。
だが、そこに踏み込んでしまえば、きっと取り返しのつかない結果を生むに違いない。
それは彼女には今、必要ではないことだ。
だからこそ、続けられた関係性だ。



「いやだ」



行かないで、と言いたげなその表情は、こちらがひるむ位に魅力的で、このまま攫っていってしまいたいと思わせる何かがあった。



「傍に、いさせて、くだ、さい…」


消え入りそうな声で、彼女はうつむいた。


それは、できない。と伝えれば、好きなんです、と返って来た。
想像以上にストレートな言葉に、少しばかり面食らってしまった。



「オズマルド…!」

「お別れだ。ノーナ」


再度笑って見せれば、今度は彼女が驚く番だった。


【依存先にはならない】


(次会うときは、敵かもしれないね)
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