企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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その声は、いつも私の傍に居た。
割と涙もろくて、突っ込みが厳しくて、なぜかザップさんへの対応にだけ甘い部分があった。
どうしてかな、と思ったことは何度かあった。
けれどその声の持ち主に出会うことは無いのだろうな、と確信していた。
「お姉さんは、ザップさんのこと、大好きだったんですね」
―えっ、ええっ?! …ええー…
困惑気味の声、考えてる雰囲気の言葉。
意を決したかのように一息ついて。
―そうね。すごく、好きだった。
話を聞けば、この世界でのザップさんはお姉さんのことを覚えていないし、それが当たり前なのだという。
きちんとお別れはしている、と。
「じゃあどうして私の傍に?」
―貴女、危なっかしいんだもの。いつ何処で死んじゃうか…
ため息混じりに言われてしまえば、それは事実なのでぐうの音も出なかった。
そうすればお姉さんの声は楽しそうに笑っていた。
そうして彼女の言葉の節々から、この私の居る世界の時間は地続きにならないという、真実を告げているようにも思えた。
終わりはどこででも迎えることができ、この世界に居られる時間も決められている。
それがちらつけば、いまいるこの居場所での生活とは、なんなのかたまに分からなくなるときがあった。
「どうせ忘れちゃうのに」
ぽつりと、ガラスケースに向って小さくつぶやく。
そうすれば、その音を拾ったのかツェッドが心配するような言葉をくれた。
「その言葉も、忘れちゃうのに」
お姉さんの声がいつの間にか聞こえなくなっていたのは、私の時間の終わりが近づいていたからなのかもしれない。
私の確信は、当たるのだ。
そう、信じて疑ってこなかった。
「…ど、どうして」
ある日、あの声がライブラに現れた。
しかも身体を持って。
「やっと、貴女に会えた」
クラウスさんとなにやら立ち話をしていた彼女は、こちらに気がつきくるりと振り返った。
そうして口にした言葉が、それだった。
とても素敵な笑顔で。
「あたしも、びっくりしてる」
【ササメク彼女】
(はじめまして。)
(どういうことですか…!)
(貴女、誰よりもあたしのこと気にしてるんだもの。実体化しちゃったのよ? まったく、御馬鹿な渡航者さんね)