企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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偏執王からの拷問事件以来、レオナルドはスティーブンとしゃべるときに身構える癖がついていた。
その理由としては「ちょっと無理強いされたのがトラウマで…」というものらしいが、スティーブンは別にあるのではないかと勘ぐっている。
レオナルドが弁明するとき、少しばかり耳が赤いことは気がついていた。
照れているのか?と首を傾げるが、照れるに至る要素は一切ぴんとこない。
そこが更に彼が首をかしげる角度を深くする要因になった。
「おい、ザップ。どー思う」
「って言われましても。無茶な要求をされたからの一点張りっすよ」
「あいつ頑固だもんなぁ」
「ガキの癖に頑固さはぴか一っすよ」
「まぁそう言うなよ。ほかに理由はありそうなんだがなぁ」
少年とのふれあいが長いザップならと思いはしたが、空振りに終わってしまった。
「あ。」
と、そこでザップは声を上げた。
何か思い出したと言いたげな声である。
「なんだ?」
振り向きながらたずねれば、ソファに座ったままこちらには顔を向けもしない天才でクズな部下は一言。
「最近アイツ、イヤホンつけてること多くないっすか?」
次の仕事先に向いながら先ほどのクズの言葉を思い出す。
イヤホン、確かに仕事中はつけていないが、首からぶら下げているのを頻繁に見かけるようになった。
色は蒼、配線は黒。形状は至ってシンプルなカナル式イヤホンだ。
なぜだろう、と疑問に思い、好奇心で少年に聞いてみることにした。
ノンワイヤレスのイヤーマイクをつけ、レオナルドにダイヤルする。
5回目のコールでやっと通話が開始された。
『…はい、もしもし』
数回息を整える声が聞こえ、意を決して応答した少年はやや緊張気味の様子だ。
クラクション音などが聞こえるあたり、バイト中なのだろう。
「バイト中すまないね、少年」
『…いえ、いいんすけど。何かあったんスか?』
こちらから連絡するときは大概仕事の用件なためか、強張った口調で確認してくる。
しかしこちらは雑談をするようなものなので、仕事の邪魔にならぬよう手短で済ませようと話を切り出した。
「君が最近イヤホンを常備していることが気になってね」
『へぇっ?! っわっとととととと』
切り出した瞬間、彼の声が上ずりハンドルを取り損ねたらしく遠くから「あぶねーぞ!」という怒号が聞こえた。
そちらに大声で謝る声も聞こえ、悪いことをしたか、と思ったが、しかしそれほどまでに動揺する話題だったことに更に興味がわいたのも、また事実だった。
「大丈夫かい?」
『あー、…はい。 すいません。 えっと、なんでしたっけ』
「だから、君が最近首からさげているイヤホンについてだね?」
『ぅえっふぇふげっふぐぉほっごほっ…。どうして突然…? もしかして用事ってそれっすか?』
「そうだと言ったら?」
『…切っていっすか』
「君の首が飛ぶかもね?」
『ウワーコエーヨーショッケンランヨーダヨー』
棒読みで返答されてしまえば、噴出すしかなかった。
そこまでして隠す必要のある理由とは一体何なのか。
『ホント、切っていいっすか。心臓がもたないっス』
そういわれれば、あちらはバイクでこちらは車だ。
事故にでもあったらしゃれにならない。治療費が、入院費が。
さすがにそれは困る、ということで、観念して通話継続を断念することとなった。
「…仕事中にすまなかったね」
『…極力電話はやめてもらえますかね。ホント、いろいろ心臓に悪いんで…』
【ステレオタイプ】
(あのイヤーマイク通話以来、スティーブンさんの声になぜかドキドキしてしまうとか、言えないに決まってる…!!)
(ああくそ…。さっきの曲がり道生還率下がってるし!!! 戻れないじゃん!)