企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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協会と縁を切ってから数ヶ月、あちらが手を出してくる気配はないが、ラインヘルツは相変わらずぴりぴりしているようだ。
あたしは、といえば、エイブラムスの馬鹿が新しい魔具を寄越してきたため、金色に輝いていた瞳は鳴りを潜めている。
その魔具の形というのは意外にもメガネである。

どうも新しく開発していたものだったようで、あたしにぴったりだった。
納得がいかないけれど、まぁ、ありがたく頂戴することにした。
そのおかげもあってか、以前とはぜんぜん違う世界を堪能できているため、癪ではあるがあの吸血鬼対策オタクには感謝せねばならないような気がしている。

しているだけだからもうしばらくはしなくていいとは思っている。


「どういう仕組みなんです? それ」


ライブラの策士、番頭役のスターフェイズはエイブラムスがメガネを持ってきたときにたずねれば、馬鹿が口を開く前に糸目の少年、神々の義眼をもつレオナルドが答えを出した。


「レンズですよね。たぶん目を守ってるの」

「さすがレオナルドだ! その通り、このレンズには人狼局とライブラに属してる術式組員のコラボ品なのだよ」

「コラボって言い方軽いっすね?! 内容はスゲー量の術式っすよ?! 術式浮かばないように細工までしてあるし!」


「その術式見えてるオメーがすげーよ」



そのやり取りをみていた友人、レンフロがぼんやりとつぶやき、あたしはそれに賛同するように二度三度うなづいた。
いままで術式関係は強いほうだと思っていたが、この目を封じ込めることに成功したことは無かった。
まさか、三十後半で、若い世代によって成功することとなろうとは、当時十なんさいであったあたしでは想像もつかなかったであろう。
メガネをもらってしばらくは本当に驚きの連続である。

とはいってもそんなことがあったのも一ヶ月前の話。


それをしばらくといっていいのかは謎だが、世界の色調には確実に慣れてきていた。
そんなある日の出来事である。





めがねとの生活もなれてきて、事務所での仮住まいも終わろうとしていた頃だ。
さあ、来週は自身の新居へ引越しということで、メインメンバーがそろってささやかな門出パーティをしてくれることになった。
数ヶ月ライブラ預かりだったが、そこからは残るかは自身で決めてほしい、というのがラインヘルツの妥協である。
本当はいやおうにでもライブラへ所属していてほしいところらしい。理由を聞いても口ごもって話してくれず、最終的にスターフェイズが助け舟を出してくるというやりとりを繰り返して二ヶ月。

たぶん前述の妥協点も、ラインヘルツではなくスターフェイズからの案であろう。
私自身、最初は強制的にライブラへ押し込められた形であったのもありどこか居心地が悪いと思っていた。
たとえ友人がいようとも、やはり秘密結社の事務所である。仕事の話も飛び交っているため居場所を求めてオブライエン君の個室に退避することもしばしばあった。
好きなときにどうぞ、と鍵まで渡してもらっていたので心置きなく逃げ場として使わせていただいた。

そうしてすごしていくうちに、一度はこのライブラを離れる必要があるのではないかと考え始めた。
目の魔術を抑えてしまえば、空を飛べるその辺の術師と大差ない。
というより、飛ぶくらいしか能が無くなってしまう。
結界を抑える必要性も、ない。

以前から堕落王の阿呆の力も安定しているのは知っていたため、まもなくすればそちらに完全移行するだろう。
異界の連中としてはお株を一部奪われ、尊厳が傾くのを恐れているのだろうけれど、ぶっちゃけそっちのほうがいいんじゃないかと思ってはいた。
けど、そうすれば私は必要とされなくなるし、その術師として蓄えていた無駄に多い力を異界側に差し出さんとする可能性だってあった。
実際、そうなる予定だったのだ。


あたしは、死ぬはずだったのだ。



そしてあたしもソレを受け入れるはずだったのだ。



『貴女は死にたいのか!?』



あんなに、力強く問われれば、嘘なんてつけなかった。
ぼんやりと、自分の機械式の箒で浮遊しながら考える。

あっさりと、…クラウスはあたしを生と言う地に引き摺り下ろしてしまった。

意固地になりかけていた自分が情けない。
年下に諭されるだなんていつぶりだろう。


「あそこまでするからこそ、慕われるんだろうなぁ…」


カリスマとは、彼のことを言うのだろうか。
絶対的な存在。


そこで、ふと気がつく。


『私自身が、貴女に…』



あの言葉の後は、なんと言いたかったのだろうか。
生きてほしい、と?
クラウスという人間が、生きてほしい、と?
ライブラのリーダーとしてではなく?


「…クラウスらしい。一瞬ときめきそうになったわ」



息をつき、口元を緩める。
あんな低くて意味ありげな声色で言われたら、勘違いをしそうになる。
色恋沙汰には疎そうな彼が、そんな思わせぶりなことをするはずはないし、ならば天然か。


「うわ、タチわる…」



そうなると自分だけドキリとしてしまったことになる。
いい年したおばさんが、なーにを。とレンフロの声で再生される。
やつにはおばさんなんて単語使わせないけれど。


そんなことを考えながら飛んでいれば、眼下に鮮やかな店が見えた。
降下してみればどうも花屋のようで、さまざまな色が視界に飛び込んできた。
世の中にはまだまだ賑やかなものはあるようだ。

その中でもひときわ目を引く赤が。

南国を思わせる豪快なそれは、どこか彼を髣髴とさせて、とても似合いそうだと噴出した。
店員に怪訝そうな表情をされはしたが、その花が欲しい、と伝えれば何本か取ってくれる。
代金を払い、笑ってすまなかった、と店員に謝罪し店を後にした。





さて、この花を渡した時、彼はどんな顔をするだろうか。


【ハイビスカスの花言葉】
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