企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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雑貨屋スノードーム。
HLでは知る人ぞ知る雑貨屋である。
雑貨屋とは名ばかりのあちらこちらから雑多に仕入れられた品目を取り扱っている、店主の道楽の延長戦がものをいうお店だ。
最近では人間界からはじまったスノードームの発展形、異界覗きというものが人気らしい。


どういうものかといえば、スノードームでは中に雪を模したものを入れてあるが、それを小さな金属を散らしたものになっている。
中に設置されている街も金属で出来ており、巻き上がった金属が触れて、耳を近づけるとかすかにキラキラという音を聞かせてくれる趣のある一品である。
異界では目の見えない個体も多く、音を頼りにしている者も少なくない。
そんな者へ向けてあちら側の細工屋が改良したのがハジマリだったといわれている。


さて、その店には異界存在や人間、たまに堕落王や偏執王も現れるらしい。
三者三様、姿も形も違えど、店主は気にすることなく相手をしてくれるためリピーターも多い。
その店ではあまり異種間の争いもないそうだ。



「こんちわ」

「おう、人狼のお嬢ちゃん、いらっしゃい」


店主が顔を上げれば、本日もお気に召した商品を見つけたのか、花瓶を会計の卓上に載せて反応を待っている黒髪にスーツでスタイルの良い女性が立っている。
彼女がどういった存在なのかは、店主はよく知っている。
昔から隣人のように生活してきた者たちだ。
店主自身はそういった"逸脱"した存在ではないが、こういった店をしていれば関わりは増える。

彼女もまた、"逸脱"した存在だ。

「これ、いいね」

「むぅ? また古い品を引っ張り出してきたねぇ。よく見つけたもんだ」


よく見れば、半世紀ほど前に仕入れていた品だ。
記憶にはあったが、しばらくガラクタの山の中に埋まっていたような気がする。
しかし彼女は顔色ひとつ変えずに首をかしげた。



「オススメ用のショウケースに飾られていたけれど」



はて、とこちらも首をかしげる。
今日はショウケースを触った記憶もないし、客もそんなに来ていなかったはずだ。
そしていま、会計の卓に乗っているのは久方ぶりに見る商品。

おかしい、おかしいと近頃思う心当たりはあった。
大昔に仕入れた品が時折触っても居ないのに売れていくという流れ。
先週も彼女が購入したものは物置の奥に眠っているはずの一品であった。
しかしそれを「ショウケースのとこに飾ってあった」と顔色一つ変えずに首をかしげる。


他の客でもしばらく前にあったような気がする。
目の付け所が、とてもいいのだろうか。

「お嬢さんがお持ちになる品は、いつもセンスがよろしいな」

「職場の人にも、よく言われる」

「そうでしょうな。こちらはね、本来は奥の間に眠っていたはずの品なんですよ」


そう素直に伝えれば、珍しくぎょっとした表情をして目をしぱしぱさせている。
そんなはずは、と言いたげな顔なので、これは本当に品が主を選んでいるのだと確信を持てた。


「商品が、あなたのもとへ行きたがっておられるのだろう。ささ、お会計をいたしましょうね」

「けど、これは。」

「お嬢さんのお持ちになる商品はみな、埋もれてしまった商品ばかりだったのですよ。しかし貴女は手にとっておられる。これは運命としかいいようがないだろう」


きっと彼女の購入した商品たちは皆幸せそうに本来なすべきことを全うできているのだろう。
だからこそまた新しい何かを求めて彼女はココへやってくる。

好い物に出会える場所、と。


小さく笑って見せれば、また驚いた顔をして、今度ははにかんだ笑顔を浮かべた。
金額を少なめに提示すれば、そのままの値段で買うと言って聞かなかった。
とうとうこちらが折れてそのまま紙幣を数枚受け取った。


安くは無いはずだ。けれどとても幸せそうにその新聞にくるまった花瓶を抱え、彼女はこちらに一礼をして姿を消した。


「商品とヒトが惹かれあう…。この街だからこそ、特に強く惹かれるのかもしれないなぁ…」


次の客はいつ来るのやら、と思い、ふ、と口元が緩む。
先ほどの彼女の笑顔も相まって、心の奥がふんわりと暖かく感じた。


【以心伝心、惹かれあうモノとヒト】



今日もまた、この店に一人の客がやってくる。
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