企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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さよなら。



終わり行く世界でワタシがつぶやく言葉はきっと誰にも届かないのだろう、落ちた水の中、だれも声はかけてくれない。
分かっていたじゃないか。誰も私なんて見てすらいなかったんだから。
ソレすら気づけなかった私はどれほど愚かだっただろう。
でも、期待していた。その手を伸ばしてくれると、その瞳は見つめてくれていると。
無駄な期待で終わってしまったわけだけど。

一方的な想いは自分自身を蝕んで、誰も見ていないのに見られているような気になっていたんだ。


さよなら。大好きな世界。
さよなら、大好きな人々。


消えて逝く私を許してね




「させるかよっっっ」




意識が回復すれば、底には見慣れた表情が大声で叫んでいた。
一気に引き戻された感覚は、とても痛い。
とても、苦しい。
とても、



「ぇっ…ぐ…いた、い、よう…! こわかっ、た、よぅ……っ!」




搾り出した言葉は、上手く言葉にはならない。
それはきっと一番言いたかった言葉だ。
ずっとずっと、ずっと…!



「勝手に逝こうだなんて、ぜっっったい、許さないんだからな!」



抱きしめられていた。
雨の中、わたしは、一番想っている相手に。
ああ、そうだった、そうだったんだよ。


「夢であって…」

「え…?」


「だって、だってだってだってだって…だって…。」



見ていなかったんだ、誰も。
見ていなかったんだ、ワタシは。




「だって…! わたしは、何も知らなかった!」





発動したのは、抑制されてきた記憶と、感覚と、思い出だ。
大切な、大切な。隣り合っていた確証。
認め合った、覚悟の証。



忘れていたすべてがよみがえった。
どうしてそうなったのかワタシには分からない。
けれど、この街は奇跡によって成り立つ世界だ。
それによって、すべてを護り、すべてを認め、すべてを壊し、すべてを否定した。
矛盾が奇跡を呼ぶのなら、それは承認されておかしくない奇跡だ。





「ごめんなさいっ…!」






ぼろぼろの四肢の理由は、もう忘れたっていい。
これは、わたしの自己満足だ。
自己責任だ。誰にも責任なんか負わせるもんか。


守った勲章だ。


大事なヒトを、ここ一番のときに守りきることが出来た、誇りの証だ。




「もう、大丈夫です…っっ!」




笑うのが、ワタシの仕事だった。
ハジマリはそれでよかった。
手伝えることが増えた。
それはヒトに触れるきっかけを与えてくれた。
すこしないしょごとができた。
誰かを心配させることになった。
守る力を得た。
無茶をする意味を覚えた。



守りたいヒトが出来た。
守られるだけじゃ、絶対に嫌だと思えるようになった。



世界は美しい、けれどとても汚くて、とても歪で。
でも、いつもキラキラ輝いてるんだ。
プリズムのように、とてもまぶしい世界なんだ。



大好きなヒトに、笑顔を向ける理由ができた。
わたしにとって、すべてはそれに起因した。


この涙も、泣きながら笑うこの感情も。今はとても愛おしくて。


「…っ…よかった。ほんとに…死んじゃったかとっ、思ったん、だからなっ…!」
「えへへー…ごめんねぇ。いや、ほん、と。ごめ、いわく、おかけ、し、て。」


へら、と笑えば、貴方も涙がまた零れる。
血溜まりは私の傷口へと戻り始め、血の気も戻ってくる。
視界もだいぶ回復し、身体を動かせば、激痛が走って表情が歪んだ。


しばらくは動けそうにないなぁ、内心苦笑いをこぼせるくらいは精神的にも余裕が出た。

「レオナル、ド」
「…なんだよぅ…っぐす」
「だーいすき」


へへ、とはにかんでやれば、心底驚いた顔をしたレオナルド。
そこから、え、記憶が?、ちょっとまって?と困惑した表情を浮かべ、涙を流しながらおろおろしはじめた。


「ノーナ・R・ハロルド、完全復活、しま、したっ」


にひひ。


【空中ブランコ】



(宙を舞ったままだった記憶は、いま、ここにある)
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