企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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もし、この世界に、慈悲があるのなら。
それでも、この世界に、一抹の希望を見出したいのなら。
【病室の天邪鬼】
「……わたし、知ってるんだよ」
「…どうしたの? ノーナ。そんなおっかない顔してさ」
「…ブラックを、いや、あんたん中にいる、その真っ白で真っ黒な野望を抱えてる王様を。わたしは、知ってる」
「……困ったなぁ、きっとノーナは疲れてるんだよ。昨日なにか映画でもみたの?」
「ブラック。わたしは、敵になるよ」
西日の差す、病院のテラス。
斜陽はゆっくりと、わたしと彼の影を動かしてゆく。
その光が、わたしのめがねの下を、はっきりと照らした。
「お前、義眼もちだったのかよ」
先ほどまでの穏やかな表情から一変し、前髪をかきあげながら、一度、一礼をするかのようにかがんだブラック。
顔を上げれば、ブラックのそれとは違う、視線。赤い、眼。
声は荒々しく、口元は歪に吊り上げられている。
わたしは、知っている。この、男を。
「残念でした。あのレアアイテムとは、ちょっとばかし趣旨が違うもんなのね。これ」
「ほお?」
「【通しの瞳】って、知らない?」
メガネの下で常時動作を繰り返している、その瞳は、深緑。
たった一人にしか使うことができない、都市伝説でしか語られたことがない。
ガラクタの眼とも言われる、唯一無二の存在。
「は…っ。俺だけに。この、絶望王探索だけのために、使ったのか! お前!」
あざ笑っているようにも、驚愕しているようにも思える表情を露にした、ブラックの中に巣食う絶望王は声を上げた。
その言葉に、わたしはまっすぐ視線をはずさずに、口を開く。
それは、呪詛にもにた、しゃべりになる。
「これは、それだけにしか使えないわけじゃ、ないんだよ。」
ス、と下ろしていた左腕を手首を下に向けたまま、ゆっくりかおと同じ高さまで持ち上げる。
「こういうことも、」
つい、と手のひらを返せば、青い炎のような幻術が平の上に発現した。
その色に、絶望王は今度こそ驚愕を顔に出す。
その存在を、彼は知っているのだから。
「こうすることも、」
その平に起こした炎を、ゆっくり握れば、変化が現れる。
空気質な、悲鳴。
「か…っ…」
絶望王の首がゆるくしまっていく。
その眼がコチラを捉えそうになれば、もう片手を親指と人差し指でつまむように右から左へ、振り上げスライドさせる。
「どう? 幻の一品のお味を、存分に味わえているかしら?」
両の手を離せば、ゆっくりと彼の身体が地に伏す。
ノドからでる咳き込みに、問いかければ、片手を彼は上げ、制止の合図とした。
待て、と。
「別に、この街が伏すようなことがあっても構わないわ。わたしだってこの街を落としたくてしょうがないんだから」
けどね? と前置きをすれば、ふうっと小さく息を吸った。
「その身体の持ち主と、その対の妹になんかしようっていうなら、絶対に、許さない」
重い声色で告げれば、落ち着きを取り戻したのか、服を叩きながら、ため息を吐く姿が見えた。
顔を上げれば、すこし呆れた表情だ。
「どちらかが死ぬようなことがあれば、その計画も、とめてやる」
「お前に、出来んのかよ。こんなにデカイんだぜ?」
「そのときは、あたしが、全部を引き受けるよ。死も、結界も」
(この、死にたがりめ)
(そっくりそのまま、あんたに返してやるわ。『 』)