企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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夜は、あたしを包み込んで消してくれる。
今日もまた、部屋を抜け出して暗闇を求めて街へと繰り出す。



【夜話 〜暗闇庵と彼女の場合〜】




それは夜に出来る暗闇の深い深い色の影にだけに道筋をつくり導いた先にある店だ。
暗闇庵に至る道を通る者は、大体死に行く者が大半だ。
その種族は千差万別、異種さまざま。


あたしはその店、暗闇庵でひょんなことから働くことになった。
たぶんその経緯を聞いたところで誰も信じてはくれないだろう。
この街、ヘルサレムズ・ロットであろうともだ。
奇跡なんかどころじゃ収まらない都合のよさが、暗闇庵とそれに至る道には存在する。



「ういっす」
「5分遅刻。」
「今日、外が祭りなのわかってて言ってます? ファーザーさん」
「外のことなんて知らないよ。何、花火でも上がってたの?」
「そうですよ。あ、早い時間に写真撮りましたけど見ます?」

「よし、遅刻に関しては見逃してあげよう。見せなさい。そして焼き増して店に飾りなさい」

「イェッサー」



この暗闇庵の店主、ファーザー・D・ファーザードは死人案内を生業にしていた存在だ。
外の世界を創られてから一度も見たことがなかったらしく、引退してからこの店を開いたのは死者からの外の話を聞くためもあったらしい。
現在は死者の死ぬ前に一服し、気持ちの整理をしてもらう場として喫茶店として、時に自身の思い出を形にし保管する思い出図書館として存在している。


あたしは暗闇、影を主だった能力として持った者として生を受けてから、現在に至るまでこの店とともにあった。
けれど14まではその暗闇の道、逝道(いどう)を覗くことは禁じられていた。
生きている身体のため、特殊な空間である店への直行手段がある。
暗闇の深く深い、一番深い色の影に飛び込むことだ。
そんなものは夜でもなかなかに難しい。この街は特にいつでも明るい。見つけるのには苦労するのだ。
そしてたまに遅刻をする。見つけるのに時間がかかってしまうのが原因だ。
いまなら逝道として機能している影を使えば店にはたどり着くことは可能だが、いろいろとリスクはついてまわる。

「あの道すがらにはね、通る者の都合のよいものが視えるのだよ。影なしの少女よ」


通ることを許された14の誕生日、小さなケーキをコーヒーと一緒に出してくれたファーザーさんは逝道というものの異質さ、特殊さ、恐ろしさについて語ってくれた。

だからこそ、20になった現在でも深淵、とあたしが呼んでいる唯一の影を探して飛び込んでいる。


「ん、なんだこれ?」
「どうしたんだい?」
「いや、ん、青い、瞳?」
「見せてごらん」


祭の写真を収めたデジカメを繰って行く中で、気になる写真があった。
やけに明るく発光する、瞳。
綺麗な蒼。
その瞳をもつ、少年の姿が、ブレ気味だがフレームインしている。人ごみからはずれた影探しの途中に撮影されたものだろう。
目を凝らすように見上げている姿。

どこか、気になる存在だ。

あたしの引っかかりに、ファーザーさんが珍しく乗ってきて、覗き込むようにこちらに肩を寄せてきた。
彼の肩は老人なのだから当然だが、それ以上に骨ばっている。肉付き自体、昔からそんなになかったらしい。


「…ほお、久しく聞いていなかったが、これは精巧なつくりになっているね」
「?」
「おお、そうか。ノーナは知らなかったね。この眼は普通のものじゃあない。それくらいはわかるだろ?」
「ええ、まぁ…。じゃあ、なんだっていうんです?」




「ふふ、心が躍るね。この名称を口にするのはいつぶりかな。これはね、『神々の義眼』という、チートアイテムだ」



いうなれば、精巧な動く隠しカメラさ。


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