企画展示室

□お題募集企画
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「ねえねえ、ラインヘルツ。あたしとゲームしない?」



【かくれんぼ】



「…正直後悔してる」
「でしょうね。すごい勢いで探してますよ? クラウスさん」


あたしは確か、かくれんぼをしようと誘ったはずなのだ。
そう、普通のかくれんぼ。

それがどうして捜索状態にまで悪化してるのか、割と本気で当事者に問い詰めたい。
けど出て行けば負けちゃうし!? なんかそれは癪だし!?


「ノーナさん、そろそろ諦めたらいいのに…」
「やかましいわっ、ちょっと、そこっ、どきなさい」


途中で巻き込んでやったレオをどかし、外をうかがう。
大丈夫、まだ気づかれてはいない。
もー、と呆れた顔でため息をついているレオを尻目に、あたしまでため息をつく。


「言うタイミング見失っちゃったのよね」
「…あー。やっぱそうなんですね」
「そんなこと繰り返してもう10年よ?」
「あ、結構重症だった」
「うるさい。だからさ、なんかどう接したらいいかわかんないのよね、最近」



ぼろぼろとそんな言葉をこぼせば、はぁ、とレオは相槌を打つ。
あの腹黒なんかに相談した日には、きっと面倒くさい事態が待ち構えているに違いない。
K・Kなんて勝手に話をすすめちゃいそうだ。それは困る。わりと本気で困る。きっとあたしはそこでこじらせてしまう。


「で、どうするんすか。かくれんぼは見つからないと終わりませんよ?」
「そこなのよねぇ〜。割と速く気づくような場所に隠れたつもりなんだけどさ」



意外と盲点だったみたいね。


ガチャ



「お二方、こちらでしたか」


「「ギルベルトさんっっ?!」」



突然扉が開いて、包帯を顔に巻いた執事、ギルベルトさんが顔を覗かせた。
相変わらず素敵なお顔です。あ、そうじゃなかったっけ。


「そろそろ出て行かないと、こちらの収拾がつかないのですが…」
「…そっすよねぇ」
「むしろクラウスさん、ここを開けないってすごいっすね。いち早く開けますよ。普通」



レオの言葉に大きくため息をおとす。あたしも同感だわ、と同意しクローゼットから出て行く。


ああー…面倒くさいことになっちゃったよね、あたしたちさ。
いつも隣が当たり前でさ、キスとかしたことはないけど、手をつなぐくらいは普通だったしさぁ。
だからかなぁ、距離感がわかんなくなっちゃったねぇ。


いつも呼んでる名前を、呼ぶか迷ったりとか。
恋人じゃないのにたまに腕枕で寝かせてもらったりさ。
なにか言いたげだったのを聞かない振りしてみたりとかさ。

謝りたいこともあるんだけど、ずっと伝えてこれなかったこともあるんだよね。


「ごめん、クラウス」

「…っ、どこにいったかと…!」

「かくれんぼだって、言ったじゃないか。この箱入り三男め…」

「…すまない」



いつも、そうだ。彼はこうやって抱きしめてくれる。
たまに理由もなく、たまに泣いてる姿を隠すように、たまに、何かに掻きたてられる様に。
なんてあたしは頑固だったのだ、ずっと、こうやって支えてくれてたじゃないか。



「すき」



「…、…聞き間違えたか、いま、なんと」


「…ばか」

「…すまない、もう一度言ってくれ」

「すきって言ったのよ、意地悪クラウス」




「いままでどれほど待ち焦がれた言葉か…。聞き間違えていれば、とんだうっかりになってしまう」

「馬鹿まじめね…もう」



いままでかくしていた気持ち、見ないふりしてた気持ち。
やっと、見つける気になれた。やっと伝えることができた。


「やっと見つけたのだ、このくらいの意地悪は、許してくれ給え」


ふ、と笑った彼に、今度こそ落ちることになるとは、昔のあたしには想像できないだろうなぁ、と思ったのだ。
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