企画展示室

□お題募集企画
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「おっつかれー」
「おう」




【はしご】




金曜日、午後20時
仕事終わりに駅で待ち合わせた相手は最近飯屋で知り合った少女だ。
見た目は少女だが、実際は20代だと聞いて胸をなでおろした。
俺、犯罪はしたくないんで。まぁ、彼女の場合、むしろ気が合う飯友だろう。


「今日はどこいく?」
「新しい店オープンしたらしいから、そこ」
「どこだっけ、今日トィッターで誰かつぶやいてた気がするわ」
「それは郊外のほう。今日いくのは違う区域」
「えーまじか。じゃあつぶやいてたほうはまた次回かー」


地下鉄を乗り換えながら飲み屋が軒を連ねるいつもの通りへと出る。
そこから細い路地に入れば、スナックやバーの明るい看板が目に付く。
そんな明るい通りを抜け、若干薄暗い突き当たりにひっそりと、今日の目的地である食事処がある。

「わりと近場だったんだなー」
「まぁ、オリバーさんところの弟子が独立しただけだし」
「あーえー? ネブリュスさん? そうなんだ」
「こないだ話してた…ああ、酔いつぶれてたっけ」
「ああ、こないだの。ニーカお前俺置いて帰ったろ!」


「悪酔いしたヤツと帰る気はしない」
「あのなぁー…」


ぎっ
からん


「らっしゃーいって、おまえらかよー。来てくれてサンキューな。ニーカにエデン」
「っすー」
「エデン、知らなかったんですよ。ここ」
「ニーカお前飲ませすぎてたって親父さんから聞いたぞ?」
「なんのことかわからないな」


店に入ればまだそんなに客はおらず、ゆったりとしたジャズが流れている。
そんな中なじみのシェフであるネブリュスさんに声をかければそんな会話になる。



「つーか強めの酒用意させたのニーカだったのかよ!」
「気のせい」
「ぐぬぅうー…ん? あ。ネブリュスさんのカレー出すんすか?」
「おう、まかないシリーズで一番人気あったからな!」


異界存在のネブリュスさんは人間型の店主、ホロウからカレーの作り方を習い、自分らしいものを創っていた、
それをためしに出してみれば意外とはまる客も現れたのだとか。
かくいう俺もそこの親父さんの揚げるカツと、ネブリュスさんのカレーがお気に入りだった。
そういうわけで、俺はカレーを頼み、ニーカは三種の酒をすこしずつとお任せコースを頼んでいる。
今日のお任せコースは日本食なので、お酒も日本酒三種らしい。
意外とニーカは酒を吞む。いろんな酒に強いが、量は飲めないようで、必ず何種かのお酒を頼んでいる。



「へい、カレーと、今日はおまけでハンバーグのっけてやんよ」
「うほぁーうっまそー」

ふたりでいただきます、と手を合わせ、がつがつと食べはじめる。


ぴりっと聞いてるスパイスに、ごろごろジャガイモがほくほくで、臭みがしっかりとれたにんじんが少し甘さを分けてくれる。
そこに油分たっぷりなハンバーグの肉厚が重なって、たまらなく幸福感に包まれる。

「ほぉあ〜…うっめえええ」
「ハンガーグ入り、はじめてみた。ひとくち拝借」

ほれ、とスプーンで掬って差し出してやれば、少し面食らったような表情をするニーカ。
くわねえの?と聞けば、勢いよくはぐっと口に含む。

「ん、うまい」
「だろ?」

じゃ、じゃあ。とニーカが今度は芋の煮っ転がしを差し出してくる。
ぱくつけば、鳥みたいだなと言うモンで、誰が鳥頭だ、と返してやった。

「バカか?」
「あん?」
「ほれもうひとくち」
「ぁむ」

「ほら、鳥みたい」

「親鳥のえさやりかよ!」





「っはー…美味かったー」
「だね」


ごちそうさま、と手を合わせるころにはだいぶ客も入って賑やかになっている。
次の店どうするよ? と聞けばダイナーに行こう。と端末を眺めながら言う彼女。

「ダイナーかぁ、そういやいままで通りはするけど入ったことねーなぁ」
「おいしいよ。職場のメンバーもよく行くし」


ほー。そうなのか。と聞けば、お店の店員さんも感じがいいとか。
そりゃいかねーとなと笑えば、そうだな、と笑った。






(ちょ、今からニーカさん彼氏連れてくるって!?)
(ふぁっ!?)
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