企画展示室

□お題募集企画
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泣きたくなる。
なんでこんなことになったのか。


【嘘つき】


「なんで顔面イケメンのスティーブン氏が我が家で寝てるんすか」

ちょっと意味がわからない。
いや、さっぱりわからない。
むしろわかりたくない。
とりあえず玄関から、いや、むしろ窓からでも投げ捨てようか。

うちの職場の番頭役で、腹が黒い、あ、いや腹黒い、イケメンこのやろうな上司様。
それがスティーブン・A・スターフェイズさんだ。
正直、こんなドがつくほどのイケメンはだいっきらいだ。まぁ、あたしがモテないからなんだけどね!
そんなモテ男で出来る男が
な ぜ あ た し の 部 屋 に い る の ?


つか、ソファで寝てるし、部屋には酒のグラスが散らばってるし、なんか胸元はだけててその白さに目がバルスしそうだし。
な ん な の ?

思い出そうと頭を捻るが、なんか、呑み比べをした覚え、が?

い や 、 だ か ら ど う し て そ う な っ た し ?

「うわ、記憶ないわ、どうしよ」 

よし、追い出そう。

とは言うけど、あたしそこまで力ないわけだよ。
どうすんの、ひきずるしかないの? ま、いっかそれで顔面が小マシになるなら。


「んっしょ…、思ったより軽いのなー…ちゃんと喰ってんの? この顔面がエロ五月蝿い上司様」

「んー…」

「しゃべんじゃねえ、耳がおかしくなるわ」

毛布をかけて防音対策をする。よし、これならエロい声も聞こえないZE☆
ずるずる、と引きずっていれば、ガバッと突然起き上がったので、驚いた。
と同時に頭を彼は強打した。ばかじゃねーの?


「っ……」



しかしあたしは優しい部下なので! 心配するわけですね!

「あ、すみません。ダイジョーブデスカー?」

「…。……」

「…おおう、毛布のせいでキキトレネーデース」

「…凍らせようか」

「ア、サッセン…」



のそりとあたしの手を振りほどき、毛布をべろっとはいだ上司様は、えらく怒っていらっしゃった。
あれ、なんでご立腹なの? おこなの? あ、ゴメンナサイ凍らせるのはやめてください、シンデシマイマス。


「上司をひきずって何しようとしてんのキミ」
「ほら、今日は粗大ゴミの日だ…あ、いやすみません。錯乱してました」
「…わりとマジだったろ」
「そりゃ素晴らしき我が家になぜかイケメンが落ちてるんですからすてnふひぁふあぁふぁふぁう」



痛いんですけど。
ほっぺたつねらないでほしいんですけど。


「…それは、こっちのセリフだから?」
「ふぁふひ(はい)?」



にっこり問われれば、身に覚えがないので首をかしげる。
いや、まだつねったままですか、痛いです。


「覚えていない、と?」


コクコクと無言でうなづけば、んーと一度視線をはずして考えるしぐさをする。
うわ、その横顔見たくないです。むしろあっち向いててくれないかなぁ。
そんなことを考えていれば、突然頬が開放された。
ぱっと。


「…なんですか」


睨めば、彼は部屋に引き返し、衣服をまとめ始めた。
え、なに、自主的に帰っていただける? なんてうれしいのだろうか!
しかしなにやら焦っているようなのですが、どうしたのやら。


「なんなんですか」

「さてな、まさか起きたらきみの部屋にいるとは思いもしなかったが」

「あんたも大概覚えてないじゃないですか」

「…すまん」

「へ?」




何でこの人謝ってんの。ちょっと気持ち悪いのでさっさと帰ってください。
かなり不機嫌そうな顔で言えば、頭を抱えているようだった。


「…きみなぁ…」
「はい?」



「いや、うん、お酒は控えめにするに限るな」

「はあ…はぁ?」




ばたばたと玄関へ向かう彼を、あたしはため息と一緒に見送る。
なに、このひと。

「まだ酔ってるんすか?」
「しらん」


どうしたというのだ、この人が突然不機嫌になるとは…。

パタム



よくわからんまま、スティーブンさんが帰っていき、あたしは仕方なく部屋を片付けていくことにする。
片付けていて気がついたけど、あたし、なんで手料理やらおつまみやら用意してんだ?
酒?みながら晩飯作ってたらそういうことあるけど、まさかだとおもうけどもてなした? あたしが? あのイケメン面を?
ナイワー、ないっわー。


片付けも一通り終わって、メールのチェックをしていると、過去ログになんか身に覚えのないメールがある。
ぅあるぅえー?

これ、



番頭さんからじゃね?




流れ的に? 仕事関係の女といざこざで? ミスをして? ポカやらかして? やり場のない愚痴を言いに? うちに? 来た? はああ?!



「覚えてないとか絶対アレ、嘘だろ! へたくそだな!?」



じゃあなんで嘘ついたんだよ、あれかプライドってやつか!気楽に仕事の愚痴こぼせる相手があたし、だったと? あほか。こちとら願い下げだったんだろう?
メール一通も返してねーじゃん。さすがすぎか!



(で、なんであの人はウチを知っていたのだろうね…こっわ、ストーカーじゃあるまいし)


(…酔った勢いで甘えに行ったとか…あー! よりにもよってあいつに! あーくそ!)



―想う番頭

―嫌う部下
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