企画展示室

□お題募集企画
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「…ええっと」


困ったことになりました。
いままで男として秘密結社で働いていたのですけれど、ちょっとしたことで…。




 バ レ ま し た … !



【一時間前】



いつもどおり、報告を済ませようとライブラの事務所に伺ったのだけど、急務のため外出、というメモが報告先の副官さんの机においてあったのです。
今回の報告書は一度副官であり、番頭役であるスターフェイズさんに確認してもらわないといけないので、待たなければならないという事態が発生。


「はー…」


どーしよー、と内心そわそわ。
なぜかって? いや、俺ね、いや私なんだけど、俺ね? あの人苦手なんすわ。
ほら、だってなんか、モテてるの自覚して仕事してる人だからね? そういう仕事だからね?
コミュニュケーション?高いんですよ。ええ。俺はそういうの苦手なんですよ。
むしろクラウスさんのほうがいいというか、癒されるっていうか…。


いいよねぇーー、おっきいのにお花愛でてる姿とか、なんかマイナスイオン出てそうだよねぇ。と同僚(男)に言えば、親指立ててグッジョブされた。
やっぱそうだよな! な!

それに比べて、番頭様はどうだい、なんかあれじゃないか、

 イ ケ メ ン の仮面かぶってるってかんじ。

顔になんか五月蝿いくらいのイケメンって言葉が書いてあるみたいな。
わかる? あ、わかんないか。そりゃそうか。いや、いい人なのは分かるんだけれどね?
腹黒そうじゃん? いや腹黒いんだけどさ。


がちゃり


そうなんだよなぁーあの人、なんであんなに自信に満ち溢れてんだろうなぁーすげえよなぁー。
あんな男に生まれてみたいわーどんな気分なんだろうなぁー

あーあーあーーーー…あーあー…


そこで一息、ため息。
考えれば考えるほど、上司に対して嫌な言葉ばっかり浮かんでいくんだよなぁ。
いい人なんだけどなぁ、いい上司なんだけどなぁ。


「顔がエロウザイよなぁ」

「なにが?」


「え、いや…ふぉおおおおおおぅ!? ば、ば、ば、ば、ばばば…番頭さん! じゃなくって! スターフェイズさんっ!?」

「え、なに、そんなにびっくりするこたないんじゃないの?」

「や、あのっ、そのっ…ちょおぉっと、考え事してた、もん、で?」

「ほぉお? エロウザイってのは?」

「その、えと……昨日見た映画の!そう! 三枚目の役者がですねっ、エロウザイ顔してたんすよ!」

あははははははは、は、は、は、…?ちらっと見れば、


明らかに信じてないよ?って顔してらっしゃるううううううううう!! うっわああああああどおしよおおおおおおお…

お、落ち着けっ…落ち着くんだ、俺ぇ。
まずはっ、ほら!今日は何の用事でココに着たんだっけ!


「そ、そうです! 報告書! こ、こ、こ、こ、コレ!」
「えっ、ああ。おおう、うん。…うん」


ぐいっと書類を番頭さんに押し付ければ、困惑しながらも受け取ってくれる。


「そっ、外で待ってますので! だめな部分があったらチェックいれてくださいっっ!」




大急ぎで部屋を出て、冷や汗をかく。
ふひー…びぃっくりしたぁーーーーーーーーーーー。
考えてる最中に、嫌な言葉を向けてた相手いるとね! すっごくびっくりするよな!
焦ったぁー…ひえー…。
強引に逃げたけど、かなり無理あったよな? わかっとるわ!


「はぁー…」


あーほーかー…。あほだわなー…


「あー…癒されたい…」


ぽやん、と思い浮かべるのは、うちのリーダーのあの後姿。
大きいのになんだかつんつんしたくなる、あの後姿。
リーダーなのになぁ。

「あー…想像するだけで癒されるわぁ〜…」


はぁ〜と気の抜けた声を上げていると、ガタっと音がした。
そして目を向けたら目が合った。今しがた想像していたお方と。


「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」



声にならぬ声が鼻から突き抜けた。


あーもうやだ、恥ずかしすぎて死にたい。
顔を伏せて、膝を折れば、もうーーー羞恥心ですんごいことになっていた。


クラウスさんに聞かれた…死にたい…あー死にたいこのまま死んでしまいたい、やだやだ、もうやだあーもー最悪じゃないか、あーあーあーあー…。



「…大丈夫かね」

「あーちょっとまって、今それどころじゃないので、死にたい、穴があったら掘って入ってふた閉めて一生冬眠してたい…」

「それは大変だ、こっちで休みたまえ」

「あーどうもありが、ぅおおおおおわああああ!?」


ドカッ


後ろに飛びのこうとして扉があって、ぶつかって頭打って悶絶して、目の前では心配そうなかわいい汗が出てそうなクラウスさんが近くて、だいじょばない!
だいじょばないぞ! 天使だ! 天使が舞い降りたぞ!


「だ、大丈夫かね…? 凄い音がしたようだが」

『おーい、大丈夫かー? ホマレー凄い音がしたけれど』


「だいじょばない! だいじょばないけど大丈夫です! はい! 俺は大丈夫ですよ! 痛いけど!」


目の前と室内からの心配の声にパニックになって、目がぐるぐるで頭痛くて、うわなにこれめっちゃ焦る!
前も後ろも包囲されてるとかなにコレ拷問!?むしろ天国!?


「番頭さんが地獄ならクラウスさんは天国だよな!」

『お前なにいってんの、とりあえず怒らないから中に入っておいで』

「ああああああ声に出ていたああああああああ!」





げー、はー、ぜー、はー…




「…死にたい」
「…?」
「いや、と、とりあえず、クラウスさん、離れてくださらないと、う ご け な い で す」



考えてみればコレは…!これはああああああ!ドキドキ!壁に追い込まれてる系!ジャパニーズコミックでしか見たことないぞ!
ドキドキしねえええええ! 死亡フラグだな!? これは死亡フラグだあああああああ!あーあーあーあーあーあーあーあーあー!



「…すまない」



「なにこれまじで天使…」


シュンとして離れてく姿が天使だわ、な に こ れ っ ガチャ わぁーーー?



ごっ




「…もうやだ、痛いし死にたい」


扉が開いてそのまま床に頭から落ちたよこれ。超痛いし、目線の先には番頭さんがいるし、足元すっげえつめてぇし、氷だよねこれ凍ってるよね。めっちゃ怒ってるよね。
うそつきーうそつきー…うーそーつーきー…
あー、これめっちゃ説教されるパターンだわ…こないだほかの人が説教されてたパターンだわ…あー。涙出てきた、つらぁ…。



「…うん?」



どうも時間が止まってるのか知らないけれど、誰も何も言わないんだけどこれなんてバグですか?
俺を見下ろしてる番頭さんは表情が凍り付いてるし、クラウスさんは、みえねーや。



「…ヅラ…?」
「へっ! えっ、あっ!」



 な ん か あ た ま が か る い と お も っ た ん だ よ ! 



「ああーーーこれはっちょっと、えっと、趣味でっ! そう! 趣味で女装するために! 伸ばしてるんですよ! コスプレ!」



バ レ る よ り か 恥 か く ほ う が マ シ !!!!



しかしこの嘘、ギリッギリだぞ! 救いは俺の胸は壊滅的に抉れていることだ! あれ、なんで涙が出るんだろう…?
いいんだい…ばれるよりかぜんぜん…。



「嘘はいかんぞ、うそは」
「ハイスミマセンデシタ」



にっこり黒い微笑みがキラリと光った瞬間、死ぬかと思った。
死にたいとかいったけど、これはマジで死ぬと思う。うん。笑顔で人が殺せるとかなにそれこわい。






というわけで、別の意味でのお説教タイム開始。

一時間くらい経っております。


「前から疑ってはいたけどね」



…ん?んんんん?


「この番頭の目を欺こうナンテ度胸ガヨクアッタモンダ」
「…至極ゴモットモデゴザイマス…」



ライブラツートップはソファに、俺は、カーッペットに自主的に土下座。ジャパニーズ土下座!
頭を上げろと数十回言われたけれどもう、顔も合わせるのも恥ずかしくて上げることができない。つらい。この空気も番頭さんの声色こわい。エロウザイ。
せめてクラウスさん一言でいいからしゃべって、しゃべってくれないと俺このまま息とめたまま死ぬかもしれない。
イケメンのいる空気吸うのがつらくなってきてる。



「で、今後どうするの」
「…新しい仕事探します…」
「それまでの家賃は」
「たくわえがあるのでしばらくは…」
「いつでもやめる準備ができてるあたり覚悟はあったのな」
「どうしてもこの建物で働きたかったんです…」



もとはといえば、このHLでもなかなか珍しい途中からの建設デザインの変わっている建物にほれてしまったのが原因だ。
闇夜に浮かぶその風貌はHLそのものをあらわしているかのような様式美があった。
面接のために事務所に通されたとき、内装も自分好みで、三度心の中で死んだ。
そして紳士過ぎる対応をしてくれたクラウスさんに、ほれてしまったのだ。いや、恋愛とかじゃなくって、尊敬するとかそういう意味。

最初はね!


気づいたら目で追ってたり、なにかと仕事を引き受けて事務所に出入りしてる最近だけどね!
べつに! 好きとか! そんなんじゃ! ない!
だって、俺、男として働いてますし?! 普段から男っぽいし!?
髪のことがなければ線の細い男に間違われるし!?

あれ、なんで涙が出るんだろう。おっかしいなぁ



「建物?」
「…建築フェチでして…、ここの建物珍しいつくりしてたので…」
「……よくそれでココで働く気になったな、お前」
「ええ! まさか秘密結社だなんて思いもよりませんでしたが!」


し ら な か っ た ん だ よ !


けど、働いてみて、割と楽しいし、いろいろきっついときはあるけど、みんな良くしてくれて。
この職場で働くことも好きになっていったんだよなぁ、何度か男に男としてのお誘い受けたのは…いい思い出…なのかな…?
あれ、涙が(



「そうか…」



そこでクラウスさんがやっと口を開いた。
次に出た言葉は、謝罪の言葉だった。


「もっと早く気がついていれば、ここで働かずにすんだかもしれないのだな」
「今日はやけにネガティブだね!? クラウス?」


「いや!あのっここのお仕事は、すごく、えっと、好きです! すごく! 確かに、血へど吐くようなこともありますよ、それってHLじゃ当たり前じゃないですか、簡単に死んじゃうようなとこじゃないですか」

「だがしかしきみは女性だ」

「髪切れば見た目ただのモヤシ男にしか見えないんすけどね!」


「そうだよ、お前、そこだ」
「はい?」

「なんで髪切らなかったの。そうすれば変な疑いもかかんなかったろ」


「…いや、切ってはいるんすけど…えっと…伸びるのがすごく早くて…」



俺は極度に髪の伸びが早く、切った次の日には元の長さだ。
腰まで長い真っ白な髪。それが本来のわたしの髪だ。
普段は茶黒いウルフカットのウィッグをつけている。



「へ」


俺の言葉に、さすがの番頭さんもポカンと口を開けてしまった。



(で、結局、俺はどうしたら…)
(…やめたいの?)
(今の仕事が楽しいのでやめたくないです!)
(では、引き続き変装をして仕事に勤しんでくれたまえ)

(クラウスさん!?)(クラウス!?)



おわれ
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