企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
44ページ/60ページ




スターフェイズさんとペーパーワークをしているとき、彼は思い出したようにふとつぶやいた。


「今日、大事な仕事があるんだが」

「はあ、大事な仕事ですか?」


別部署からあがってきた書類をキーボードで打ちこみながら私は反復するように言葉にした。
そうすれば、ぎっ、と椅子にもたれたスターフェイズはくるりと回る。
息抜きにたまに彼がやるクセだ。


「ある会社の重役を追わねばならん」

「はあ。そうなんですか。」

「チェインは今日は出られないとさっき連絡が来た」

「追尾の鬼がいないと心もとないですね」


チェインの今日出られない、は女子的な周期の話が絡んでいそうだ。
そういえばもうそんな時期か、と内心思いながら適当に言葉を返す。


「追跡のためにカモフラージュが必要なんだが、チェインがいないとなると今回の任務、難しいことになりかねん」

「それで?」

「ノーナ、手伝ってくれないか?」

「はあ分かりました」


ぱちぱちとキーボードを叩く音だけがその後響き、しばらく考えたわたしは、ん?と思い至った。

「わたしが手伝うんですか?」

「だめかい?」

「だめっていうか、一介の事務員が手伝って大丈夫な仕事なんですか?」

「僕が頼むってことは?」

「大丈夫なのかわかりかねます。たまに無茶するじゃないですか」

「心配してくれてるのかい?」

「自分の心配です。しにたくは無いので」


矢継ぎ早にそんなやりとりをすれば、最後の言葉でスターフェイズさんはなにやら大きくため息をついた。
落胆している様子だが、どうして私が自身の命の心配をして、落胆をされねばならないのか、若干解せない。


「大丈夫だ、何かあれば僕が守る」

「それ女じゃないとだめなんですか?」

「僕は君に頼んでいるんだけれど?」


だめだ、話にならない。
きっと既にスターフェイズさんの中で私は今回の任務に参加確定しているのだろう。
迷惑極まりない話だ。


「拒否権がないならないでちゃんと言ってください」

「…手厳しいねぇ」

「わたしにも都合と言うものがあります」

「今日は予定が?」

「ないです」

「じゃあきまりだ」


仕事をしながらなので表情は確認できなかったが、今彼はうれしそうに笑っているに違いない。
ちら、と視れば、整った顔立ちがコーヒーを吞んでいるところだった。


【狐と狸の化かし合い】


(このひと、ちょいちょい腹が立つなぁ)
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ