企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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スターフェイズさんとペーパーワークをしているとき、彼は思い出したようにふとつぶやいた。
「今日、大事な仕事があるんだが」
「はあ、大事な仕事ですか?」
別部署からあがってきた書類をキーボードで打ちこみながら私は反復するように言葉にした。
そうすれば、ぎっ、と椅子にもたれたスターフェイズはくるりと回る。
息抜きにたまに彼がやるクセだ。
「ある会社の重役を追わねばならん」
「はあ。そうなんですか。」
「チェインは今日は出られないとさっき連絡が来た」
「追尾の鬼がいないと心もとないですね」
チェインの今日出られない、は女子的な周期の話が絡んでいそうだ。
そういえばもうそんな時期か、と内心思いながら適当に言葉を返す。
「追跡のためにカモフラージュが必要なんだが、チェインがいないとなると今回の任務、難しいことになりかねん」
「それで?」
「ノーナ、手伝ってくれないか?」
「はあ分かりました」
ぱちぱちとキーボードを叩く音だけがその後響き、しばらく考えたわたしは、ん?と思い至った。
「わたしが手伝うんですか?」
「だめかい?」
「だめっていうか、一介の事務員が手伝って大丈夫な仕事なんですか?」
「僕が頼むってことは?」
「大丈夫なのかわかりかねます。たまに無茶するじゃないですか」
「心配してくれてるのかい?」
「自分の心配です。しにたくは無いので」
矢継ぎ早にそんなやりとりをすれば、最後の言葉でスターフェイズさんはなにやら大きくため息をついた。
落胆している様子だが、どうして私が自身の命の心配をして、落胆をされねばならないのか、若干解せない。
「大丈夫だ、何かあれば僕が守る」
「それ女じゃないとだめなんですか?」
「僕は君に頼んでいるんだけれど?」
だめだ、話にならない。
きっと既にスターフェイズさんの中で私は今回の任務に参加確定しているのだろう。
迷惑極まりない話だ。
「拒否権がないならないでちゃんと言ってください」
「…手厳しいねぇ」
「わたしにも都合と言うものがあります」
「今日は予定が?」
「ないです」
「じゃあきまりだ」
仕事をしながらなので表情は確認できなかったが、今彼はうれしそうに笑っているに違いない。
ちら、と視れば、整った顔立ちがコーヒーを吞んでいるところだった。
【狐と狸の化かし合い】
(このひと、ちょいちょい腹が立つなぁ)