企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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好きだといわれることが、まずめったなことではありえない。
わたしは、異性からは恋愛対象外なのだと、ずっと考えていた。
自分から想いを抱く相手は大概誰かのものになって、手に入らない。

そりゃ、自分をおろそかにしていることへの言い訳かもしれないけれど、それも含めたとして、私は人に好かれるような人間ではないと思っている。


「帰りたいんですけど」



久しぶりに飲み屋に行けば、振られたのだとメソメソしている男と相席になった。
顔立ちはいい男だし、柔和そうな性格をしているのは、しゃべっている内容からも窺い知れた。
いわゆるイケメンってやつか。うわ、まじ勘弁してほしいんだけど。

最終的には私に絡んできて、どうしたもんかと悩んでいた。



「きみは、いい人だよ…」
「唯の相席です、あなたみたいなイケメン相手に出来るような人間じゃないんで」
「そう、何度もじぶんをだね、厳しくみすぎるのは、よくないとおもう!」
「逢って間もない男にそんなん言われる筋合いはないです」
「初対面だからこそ、わかることは、あるとぉーおもー…」


寝たーーーーーーー!?
周りの女性からは、お前どっか行けよ的なオーラはあるしさぁ、もう、なにこれ。
正直鬱陶しいけれど、一般市民だ。ダニエルでも呼ぼうかと携帯を一瞥したが、いや、さすがに仕事以外で連絡するのもおかしいか、と大きくため息をつく。
きっと迷惑だろうし。じゃあ、警察としては、なにをすべきかって思考回路にシフトした。
女として対応できるキャパは確実にオーバーしているのだから。仕事の頭に切り替えるしかない。


「あの、お兄さん。起きてください。おーい」


ぺちぺちと頬を叩けば、ううん、と艶かしい唸り声。
あ、これ、他の女のひとが介抱したら大変なことになるパティーンじゃね?それやばくね?と思い至れば、どうにでもなれ!という根性で男性を担ぎ上げた。


「ちょっと、移動しますからねー」



一声はとりあえずかける。若干の酒の香りと、本人から薫るほのかな香水の匂いで、くらりと視界がゆれるが、そうも言ってられない状況だ。
唇をかんでなんとか難をのがれ、清算は明日払いに良く、と名刺を店員に渡してからタクシーを外で呼ぶ。


たまにぼそぼそと、ありがとう、だとか、すまない、とか聞こえる。
意識自体が混濁しているのかしらないが、それほど精神的に参ってしまっていたのかと思えば、なかなかに不憫な人だと同情はした。
それ以上の感情はないし、持つ予定はない。
むしろこれっきりの間柄であってほしいくらいだ。



「恋愛なんて、しなくていいじゃん」



片想いなんて、ただ、切ないだけで、希望も無いって言うのに。
つい、口からついて出た言葉に、胸に詰まっていたもやもやとした感情が、ぼろ、とあふれた。
あ、これ、だめなやつ。



「どうせ、叶わないんなら、さいしょ、か、ら…っく…ぅ」



そこへ止まったタクシーに、男性を乗せ、私は、この姿でどうしたもんかと考えた。
このひと、憔悴しきってるし、このまま家に帰れるのかどうかも謎だ。
神様は、私に悲しむ暇すら与えてくれないらしい。


「いいです、私も乗ります」



考えたって仕方ないのなら、もういっそ渦中に飛び込んでしまえばいいか。とほぼ投げやり一本筋でタクシーに乗り込んだ。


本人が自宅を言おうとしないので結局私の家へ連れて行くハメになた。
なんでこういうことになったんだよ、ふざけんなし。
酒が入ってるにしても、警察の人間が男家に連れこむとか世間体悪すぎだろ。


もういい、と脳内の思考をすべてストップさせ、私は男を自分のベッドに放り出し、自分は居間のソファで寝ることにした。


「あーあ、めんどくせぇー」



ため息はでるが、ひさしぶりに家に自分以外の気配が存在することへの緊張からか、結局翌朝まで眠れなったのは、また別の話。




【初めて男を泊めた朝】
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