企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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「いらっしゃいませー。喫茶LeVela(リベラ)へようこそー」

「あのっ! 外の求人見てきました! お金も住む場所も無いので働かせてください!」


勢いよく扉が開いて、いつもの来店口上を言い終わるかいなか、その来店者は大きな声で叫んだ。
目が、いや、細目だからそうじゃないけれど、目が点になった。表現的な意味で。



今日はあいにく、オーナーのクラウスさんも、経理で番頭役のスティーブンさんもいない。
面接するにも上司二人が居ないとなれば、まずそもそも受付が出来ない。
まだ僕はバイトとして入って間もないし、そういうバイト希望者を対応する権利もない。
焦った挙句、カウンターでにこやかに成り行きを見守っていたであろう、厨房長でありシェフのギルベルトさんに目線を送った。
そうすれば、一度うなずき、カウンターの奥から颯爽と現れた。


「いらっしゃいませ、ミス。バイト希望でしょうか?」



にこやかにたずねれば、かなりの勢いで入ってきたのか、若干息の上がった様子で、一度息を整えてから、意を決したように再び口を開いた。


「外のバイト募集をみまs「ういーっす。だんなぁーいるかーだんなぁー」」

「ザップさん、空気をお読みください。外から見えていらっしゃったでしょう?」

「あぇー? ぅわっ、ギルベルトさん、その笑顔こわっ、まじこわっ。俺なんかしちゃいましたっ?」


常連のザップさんが間抜け面で来店し、その声とバイト希望者の女性の声が被ってしまった。
そしてその様子を見て、どこか恐ろしい印象を受ける笑顔を向けたギルバルトさん。
その笑顔を見てびくっと反応し、本気で何をしたかわかっていなさげな表情ですこしうろたえるザップさん。
と、その流れにポカン。唖然としてしまっている女性。


とりあえずザップさんを黙らせるべく、僕はいつものように前へ出た。


「ザップさん、いつものでいいですよね?」


「ォア? いんもー頭までこえー顔してどうしたn」


「 い つ も の で い い で す よ ね ? 」


「…お、おう。」



後でめっためたにされるのは予想の範疇に入れはするが、新しい仲間になるかもしれない女性のフォローが大事だ。
そうして様子を伺いながら、ザップさんをいつものカウンターの奥の席へ案内する。


「で、あの美人は誰だよ」


こそっと僕の肩をつかみ小声で聞いてきたザップさん。
ほらやっぱり、目をつけてたんじゃないか。と内心呆れながらも、一応年上なので平静を装い対応する。


「今しがたきたここへのバイト希望の人ですよ。」

「まぁじかよ…! こりゃ、旦那へ挑む以外の理由も出来そうだな、シシシシ」

「あンた、前そう言いながらチェインさんにこってんぱんにされてたって話じゃないですか。馬鹿なんですか」

「ありゃ、見当違いの女だっあだだだだだだだだっだだだだd」



「だぁれが、見当違いだって? こンのクソ猿」



こそこそと話していれば、ザップさんの鼻先から足が少しずつ現れ、重心がかかれば、そこにこの喫茶店の紅一点、チェインさんが姿を見せた。
彼女は不可視の人狼と呼ばれる異能者だ。存在をけし、知覚から外れることができる。

そんなチェインさんは、ザップさんとすこぶる仲が悪い。
スティーブンさんに聞いたところによると、チェインさんがここのウェイトレスを始めた頃に口説こうとしたらしい。
そしてザップさん的には『些細な』出来事で『血で血を争う事件』にまで発展したとのことで。

こってんぱん、もうその言葉が当てはまる程度には、チェインさんの圧勝だったという。


ちょっと見てみたかった。



「あだっだあああああ!てめっ!どけっぅがああっ」

「あー? なんか耳鳴りが聞こえるなぁー?」




「ま、まぁまぁ、チェインさん。その辺で収めてください…、バイト希望者がきてて、今ギルベルトさんが応対してるんです…」

「うん、見てた。綺麗だねー彼女」

「チェインさんも大概綺麗です」

「おろ、お世辞がさらっと出るようになったね。生意気か」

「そんなぁー。本心じゃないですかぁ」


そんなやり取りをしながら、(ザップさんはもう総無視することにした)バイト希望者の女性とギルベルトさんの姿を眺める。
たまに百面相したりしていて、見ていて面白い。それはチェインさんも同じだったようで、たまにふ、と口角が上がるのが見えた。


「一緒に働けたら、楽しそうっすね」

「奇遇だね。私もおなじこと思った」



「ただいまぁー。デルドロと野菜の新鮮さを吟味してたら帰るの遅れちゃったよー」

「あ、ハマーさんお帰りなさい。」

「おっす、ドグ・ハマー」


「やぁ、チェイン。そういえばこの後からのシフトだったねぇ」

「よお!人狼の姉ちゃん!」

「っす」



そこへ帰って来たのは、この店でも女性客を集める常習、ウェイターのハマーさんと、彼の身体に宿っている生命体デルドロだ。
今日はお使いのために朝から買出しをスティーブンさんが頼んでいたのだけれど、帰りが遅いので帰りを待たずに再度買い物に…。

「あ、ハマーさん。電話出てくださいよー。スティーブンさん困ってましたよ?」

「や、ごめんごめん。音を切っておかないとデルドロがうるさくってさー」

へらぁ、といい笑顔で言われてしまえば、返す言葉は無い。
それで、番頭とクラウス兄ちゃんはー?とにこやかに聞いてくるあたり、ド天然なのもどうかと常々思う。あとマイペースなとこも。


「帰りが遅いので、再度買出しに行ってしまいましたよー」

「ぅあちゃー。そっかー、ばんとーに謝っとかないとねー」

「それ、反省してる人のする表情ですかぁ?」


苦笑いをこぼしながら、買い物袋を預かる。
中を見れば、確かにとても新鮮そうな野菜や食材がたんまり入っている。
人選ミスではないけれど、今度から+誰かついていく必要があるなぁと内心考える。
そうしていれば、ギルベルトさんが女性を連れてコチラへやってきた。



「面接、終わりましたよ」
「えっ、あれ面接だったんですか?!」



「どんな会話をしてあんな百面相を…」


ギルベルトさんの言葉に、女性は驚いた表情をし、あんなんでよかったのかな…とアタフタしている。
その様子を見れば、そんなつぶやきも零れてしまう。



「食事や、コーヒーに対しての情熱はとても強いですし、家事の補助もしていただけるなら、願ったり叶ったりですよ。ちょうど、手がほしかったのです」


にこやかにギルベルトさんはうなづきながら口にする。
しかし、勝手に決めてしまっていいのだろうか、と一抹の不安がよぎったが、それは杞憂だった。
なんていったって、この店の食事、飲み物の管理はギルベルトさんがしているのだから、最終判断は彼がしなければならない。
なら、上司二人を通さずとも、マスターがいい、と言うのだから、採用だ。



「今日からさっそくお手伝いいただいても?」

「ぅえ?! いいんですか?!」

「ええ、構いませんよ。」



【とある喫茶の、とある日のお茶会議】


(と、いうことで今日から貴女は正式にライブラメンバーの仲間入りですね)

(ん? あれ? 喫茶アルバイトじゃ…、っていうかいまライブラって…?)

(住み込みアルバイトですからね。表の仕事だけでなく、裏の仕事も、お手伝いいただきますよ…?)

(…え…ええええ?!)
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