企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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お姉ちゃん、義姉のノーナさんは、初対面なのに、とても気さくで、見透かしたような言動をとるひとだった。
トビーから、よく視える目を持っているとは聞いてはいたけれど、この視力をピンポイントで指摘したことに、舌を巻いた。
けれど、異能としてはぜんぜん、と彼女は困った風な口調で言う。
視力の理由も、察しがついていたのかなにかと助けてくれることがとてもうれしかった。

特に、トビーにまとわり憑いていたヒトナラズモノ、異界存在の雰囲気にはそろそろ気が滅入ってきていたところだったのもあり、協力者になってもらうことになった。
お兄ちゃんには、いえなかった。心配もそうなのだけれど、トビーにとりついている異界存在の気配がたまにするため、うかつな行動がとれなかったのだ。
だからこそ、お姉ちゃんの存在によって私の心は落ち着いていられた。


さすがに、突然長期で取材に行くといわれたときは本当に驚いたけれど、発つときに渡されたメモの内容で何をしようとしているのかは納得できた。
たいしたことではない、と言うけれど、それでもおにいちゃんとも顔合わせを済ませることも出来たし、新しいパイプがつながった。その結果は大きいはずだ。



彼女は一度私たちと帰って来はしたが、やりたいことがある!と息巻いて荷物をまとめて本格的にHLへ移住してしまった。
しかし定期的に点字の手紙が送られてくる内容によれば、楽しいくて嫌になるような日々を送っているらしい。
元気なのは何よりだ。
そうして迎えた12月。
お姉ちゃんはクリスマスよりすこし早めにこちらに帰って来た。
すでにこっちでは雪がわりと降っていて、毎日寒い日々だ。
まあ、雪をみることはできないのだけどね!


「相変わらず、リアクションに困る冗談だねぇ。ミシェーラ」


笑いながら部屋にはいってきたらしき人物は、その義姉、ノーナさんだ。
なにやら手に持っているのか、小さめの紙袋の音が聞こえた。


「お姉ちゃん、その紙袋、なあに?」

「ミシェーラってほんと耳いいよね!?」

「わたしの眼は、こうでこうだからね! 見えない分わかるのだ!」

「あはは…。さすが。んーすこし早いけど渡そうかなって思ってさ」


がさごそ、と紙袋を漁る音、その後何か取り出されたらしい。


「ちょっと待ってね。中身空けるから」

「いいのにー。視えなくてもそのくらいはできるわ?」

「私がやりたいの、あ、出た。ミシェーラ、両手をくっつけて出してみて」

そういわれて、素直に両手の平を上にして差し出せば、小さくて、すこし重たいものが乗せられた。
片手でも持てるその小さい錘は、底が丸く、ほかを触ってみれば、上部はガラスの丸い球体になっている。
そこから導き出された答え、それは。



「これ、もしかして、スノードーム?」


「うん、まぁ、似たようなものかな。前HLでバイトした雑貨屋で見つけたんだ」


「でも私見えない…」

「まぁまぁ…」


一度彼女は私からスノードームを取り上げ、何かしたかとおもえば、突然耳元にガラス部分をくっつけてきたから驚いた。


「っっっ!?」

「聞いてみて」


そっとささやかれた言葉に、心を落ち着かせて耳を澄ませば、シャラララ、シャラ、シャランという心地よい金属の触れ合う音が聞こえる。
初めてのことに固まっていれば、スノードームはそのままに、彼女は小さな声で説明を始めた。


「これは、雪の代わりに細かな金属片がたくさんはいってるドームなの。異界ではポピュラーな贈り物なんだって」

「えと、どうして…?」

「異界存在には、目っていう概念が存在しない種族がいるらしくてさ。そんな種族出身の彼女に飾り職人だった異界存在の彼氏が、一度お忍びで行ってきたこちらの世界で見たスノードームを見せたくて創ったのが起こりらしいわよ」

「…すごい」

「ねー。ちなみに中には、HLの街並みを金属で切り出してあるのがはいってて、そこの金属が触れ合う音とか一緒に落ちる金属片が当たって出る音を聞いて雪が降っている情景を妄想するんですって」

「音で、降雪を表現しているんだね」



ふふ、と笑えば、気に入ってもらえた?と聞いてきたおねえちゃん。
そんな当たり前のことを聞かれなくても、大丈夫。

「当たり前じゃない。こんなに素敵なプレゼント、うれしくないわけが無いわ」




【スノードーム】




(同じ頃、お兄ちゃんの下にも、彼女から同じスノードーム、天使の奇跡が送られたそうだ。)
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