企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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わたしは、フリーライターだ。
少しばかり歳の離れた弟を実家に残し、わたしは外の世界に飛び出した。
最初は普通の新聞や雑誌でのライターをしながら金を稼いでいた。
けれど、定住していては分からないことが多すぎて、じゃあもう飛び回るしかないんじゃないかと思い立ったのが、20のときだった。


気付ば私も32.恐ろしいほどの年月がたった。

29のとき、NYで起こった災害、というより世界合併?はライターとしてすごく魅力的なネタだとそのときは沸き立った。
けれど、実際に現場にいけば、すこし荒廃したNYに異形の生き物達が穏やかに、たまに賑やかに暮らしている、割と普通の世界だった。
肩透かしを食らった気分だったのは捨てきれない。

そこで私が出会ったのは、HLタイムズでコラムを書いているという、ホマレさんだった。
しばらくHLで生活するうえで必要になったのは毎日のこの都市で起こっていることの情報だ。
それが詰まっているといえば、やはり新聞になる。
そうすれば、以前からNYのかなり小さい会社で作られていたペーパー並みの新聞でものすごく面白いコラムを書いていた人がHLタイムズのコラムを書いているではないか。
正直、こんな出会いがあってよかったのかと、いまだに思いはするが運命はいつだって必然なのだと、以前日本の古い友人に聞いたことがあり、半信半疑だが、いまだにそうだと思うことにしている。


「えっ…! ホマレさんって名前からして男の人だと思ってたのですが…」

「いやぁ、実際コラム職してるときは女ですけど、外に出歩くときは男として生活してますよー」


けらけらと割かし明るい口調で言いはするけれど、詰まるところ、女子が一人で生活するには不向きってことじゃ…なんて思いもしたが、彼女はそうではない。と否定した。


「コラム以外でも、ちょっと仕事しててね。そっちでは素性、というか女って分かったら迷惑かけちゃうだろうなって思って」

「そう…だったんですか」


うん、でもこれ、デスクとか編集長にはナイショね?といたずらげにコソっと言われた。
そうすれば、ナイショごとが好きな私は、もちろんですとも!と声を荒げてしまって危うくばれるということをやらかしてしまった。
わたしより若いのに、凄いなぁとその頃から思っていたし、いまだに尊敬している。





そうしていれば、ミシェーラと話す機会も増えた時期に、その話題が出た。


「そういや、ミシェーラってお兄さんいるんだっけ」

「ええ、すこし頼りないけど、だけど誰よりもカッコいい、私の亀の騎士(トータスナイト)なの」

「ほんと、いつも愚弟からも聞いてるけど、ほんっとーにおにーさんのこと好きなんだねぇ。」

「だって、大切な、私の家族だもの」


もちろん、お姉ちゃんだって、これからの家族よ。と付け加えられて、不覚にもキュン…ってしたのは内緒だ。
そして自分の彼女なのに彼氏の話題が一切出なかった愚弟、トビーのあの寂しそうな顔ったら、マジウケるんだけど。


「その大事な家族だけど、いまどこにいんの?」

「私の目を治すためにって、いま、ヘルサレムズ・ロットにいるわ」

「ほぉーーー、また思い切ったねぇ」

「ホント、ムチャばっかりするんだもの…」

「まぁ、そりゃ、心配にもなるわなー」



HL、という言葉が出た瞬間、ビクリと愚弟の後ろに控えているガミモヅが反応したのをわたしは気配で勘付いた。


わたしは、このDrガミモヅという存在を、媒体的にしっている。




私がHLに来た理由はもうひとつあった。
それは、異常な空間に居れば、自分は霞んでしまうのではないだろうかと、期待していたのだ。
案の定、私はその辺の石っころレベルの存在にまで霞んだ。
ここまで埋もれるといっそすがすがしかったくらい。
その分、周りとの距離の縮まり方も早かった。





私の目は、ばあちゃんの血がとても強くて、見えなくてもいいものが見えた。
それは、ヘルサレムズ・ロットに現れた姿を隠した異界存在であったり、幽霊だったり。
かなり感動したのは妖精がいまだに信じられている地域に、本当に妖精がいることをしってしまったことだ。
けれどその目は視覚だけを与えてくれるだけで、声は、届けてくれなかった。

だからとにかく口の動きを読めるようにしたくて、独学だがいろいろ試行錯誤を繰り返した。
そうしていればスキルとして身につくようになり、意思疎通が出来るようになっていた。
その力が最初に発揮されたのが、初めてのヘルサレムズ・ロットでのコミュニケーションだったのだ。
もちろん身につくまで相当な年数を費やした。見えぬ相手との意思疎通の図り方は、種族もそうだが、性格によっても異なった。
そうなれば用意するものが増えるわ増える。ノートにタブレットにスマホにガラケー、ネットを介して意思疎通をとりたがる意味のわからんこだわりを持つ個体種もいた。

それだけで一本の論文が書けそうな位は経験したんではないだろうか。



この目は、確かによく見えた。
けれど学術的にはよく見える目という存在は異能に類され、たくさん枝分かれをしたり空想上の存在へと昇華させられていたり。
学者によってもさまざまだ。同じ目の種類を題材にしていても、書き手によってガラリと印象が変わった。
そして、資料がいまだに出ておらず、研究も進んでいない、未知の眼も存在していた。


それが『神々の義眼』である。


名前を聞いたのも、元紐育で起こった大崩落以降の話で、しかもHLでの目関連の文献を漁りまくっていた時期だからそんなに長くは無い。
調べ始めて数年経つが、立証実験なんてものも、サンプル、被験体が居なければお話にならないため、推論や考察ばかりが進んでいる。


しかし、これは人間界での話だ。

HLに滞在している間に知り合いも増え、この視える能力もあってかあちら側、異界側の研究文献を調べれば、過去に義眼の資料は少なからず存在することがわかった。
もともと『神々の義眼』とはなんなのか、名前と性能だけは方々で耳がタコになる位聞いてきた。

神々の義眼とは、異界に存在する目医者が作った、高性能隠しカメラです。

要約すると、こうなる。
目医者がカメラ、しかも隠しカメラってなんなんだよ!いみわかんないよ!と教えてくれた異界友人達につかみかかった記憶がある。
あの時わたしめっちゃ酔ってた。すっげえ酔ってた。
そこも覚えてるとかもう、自己嫌悪もんだよ、チクショー!
まあ、その後お詫びに後日ランチを奢ったわけだけど。


話が逸れた。
そんでその要約した内容を聞いたうえで義眼関連の資料を手当たり次第に集めた。
片手で抱えれる程度の資料、しかもノートのようなものが多かった。
何でノートかというと、口伝だからだ。
話を聞いた人がノートにまとめ、それを資料として出したと。
異界ってのはいろいろよくわからんですな。私研究者じゃないからわかんなくて当然なんだけど。

んでも、それぞれの資料内容はどれも酷似していて、その理由は聞いた相手、にスポットを当てれば一目瞭然だった。
同じ人物に話を聞けばそら同じになるわ。


それが神々の義肢を研究している医者、Drガミモヅだったわけである。



まさかそのガミモヅ本人を目の前にするとは思いもしなかった。
ましてや、自分の弟に取り憑いてるだなんて。


【スノードーム2】



(そして、その事実に、愚弟の彼女は気がついていることを私はしっていた。)
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