企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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夢の中で、クラウスさんに撫でられていた。
とても心地がよくて、もっと、撫でてほしくて。
つい、手を伸ばして。



「ノーナ…?」



目の前には、なぜかスティーブンさんがいた。



「ふぁ…ぅあれ…、クラウスさん、は…?」
「今しがた、飛び出すように部屋を出て行ったけど」


ぼんやりと聞けば、にこやかにスティーブンさんは教えてくれた。
え、いや、いたの? クラウスさん。
寝ぼけて聞いてしまったのに、まさかそんな答えが返ってくるだなんて思いもしなかった。
恥ずかしくなって、だんだんと顔が赤くなっていく。
そして自分の手元を見れば、スティーブンさんの手を握っていることに気がついて、尚更驚いた。


「ぅわああっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


一気に血の気が引いて、寝ぼけていた頭も覚醒する。
なななななんてことを!
ワタワタとあわてていれば、困ったように笑っているスティーブンさん。


「そんなに嫌だったかい?」
「え、ええっと! クラウスさんだと思ってたら、スティーブンさんで! いやええと!」
「クラウスのほうが、よかった?」


すこし低めのトーンで聞かれれば、焦っていた頭がさらに冷めていく。
視線をそちらに向ければ、答えを待つような表情をしたスティーブンさんがいる。
割と近い距離だ。


「夢のなか、で、撫でてくれてたのが、クラウスさん、で…」


実際になでていたのは、誰なのだろうという疑問がここでやっと浮かんだ。
そして、この現状を考えて、その手の持ち主が、誰なのか、わかってしまった。



「…ぇーと。」
「クラウスと勘違いしたんだね」
「ぁうー…、ごめんなさい」



ゆっくりと頭を下げれば、そのつむじあたりに、軽くキスが振ってきた。
驚いて、固まってしまえば、手が伸びてきて、優しい手つきで頬をなぞった。
そうして顔をあげさせられれば、息がかかる位の近さに、スティーブンさんがいる。



「じゃあ、お詫びでも、もらおうかな」

「すてぃ…んっぅ」



逃れられないその手に強く阻まれ、言葉は飲み込まれてしまう。
驚きと、衝撃と、勘違いをしてしまったというクラウスさんのことを考え、途方もなく切ない気持ちが湧き上がった。


「は、」

「…ん、んっ…んんっっ…」


両手で挟まれた頬のせいでその、喰らいつくようなキスから逃げることが出来ない。
空気ばかりが減っていき、だんだんと頭の中に白いもやがかかりはじめ、濃厚になっていくその口付けを受け入れるしかない。
逃れられない力のなさと、悔しさが、瞳の端に涙を作り、ぼろ、と零れた。


「っふ…ぅ…んっ…っぁ……っく…」



じゅる、と音を立て口の端からは涎が伝う。




助けて、と言葉にしたいのに、力が出ない。
クラウスさん、と呼びたいのに、頭が回らない。


【夢から醒めた夢であってほしい】



(これで、ぼくのものだ)
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