企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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「あは…あはははは、もう、必要ないんだなぁ」




その手に握られた武器は、ぼろぼろと壊れていく。
この、感情が保たれていたから、存在していられたっていうのに。
どうして、こうなってしまった。

脳裏を過ぎた言葉は、自分が弱いのだと痛感するもの。
抱いていた想いも、感じていたことも、信じていたものも。

全部、全部。

ぜんぶ。


「壊しちゃえば、よかったんだね。そうだね。うん、叩き壊そう」



くるりと空を指が撫でれば、その手には細い杖。
今まで遣ったことも、発現したこともなかった、魔法という存在が使える武器。
浮いた心を潰すように、宙に浮いた自分を律する。


「こどもみたい、ばかみたい。知ってるよ、…知ってる」



ぽ、と頬を伝った涙は、後悔の塊なのか。
開き直りなんかで済ませない。事実なんだ。


「どうして、なんで…」



杖は、光を放たず、ただ、静かにそこにあるだけでなにも起きない。
私には、絶望するほどの力も、ない、のか。


「じゃあ、私の意味は。存在するための、理由は…っっ」


杖を握り締め、歯を食いしばる。
堪えるように、耐えるように。

時折吹く風は、私の短い髪を揺らす。
一緒に揺れた前髪越しに見える風景は、酷く、遠い世界のように思えて。

どうしたらいいか、わからなくなって。


ちゃり、ん


耳を飾る小さな宝石のイヤリングが、音を立てて踊る。
耳元で聞こえるその音は、一緒にいた人たちのことを思い出させる。


タイミング、最悪。





「やあ、場違いな登壇者」



「最悪。あんた、ほんっと、最悪」




間を置いた隣に現れたのは、金色の髪を無造作に結わえた、仮面の男。
見ずともわかる、その存在は今の私にとってみれば、害悪に過ぎない。



「手違いで舞台に上がってきたって言うのに、ずいぶん暴れまわって楽しませてくれたもんだねぇ」


「消えてくれない? ニートめ」


「いやだね」



きっぱりと断られ、ふざけんな、と思う。
勝手に現れられたこっちの身にもなれ、と。


「だから嫌いなんだよ、あんた」

「光栄だねぇ。僕も君が嫌いだよ」

「真似すんな、キモい」

「照れてる」

「 は あ ?!」



横を向けば、にんまりと笑った口元だけが見える。
ぱたた、と相手のコートがはためく。

息が、詰まる。

その姿が、様になっていて。



「ほら、照れているじゃないか」


「…誰のせいだ」


「誰のせいだろうねえ? 僕のせいではないね。断じて」


「その自信が、よく出てくるもんだな、おい」


ため息をつけば、ほろ、と杖が崩れていく。
いまの会話の間で、何が起こったのか、私は理解できなかった。
声も無く笑うアクションをする、仮面の男、フェムト。
くくられた髪、そこから露出した首筋には、横一線のさんま傷。


「…傷」
「ああ、これかい。気にする必要は無いさ。古い傷だ」


はは、と笑われ、けれどその傷に、酷く惹かれるものがあった。
触れたくなる、そこで欲求が生まれたことに気がつき、目を瞬いた。


「おかえり、ノーナ」



その変化を、フェムトは見逃さなかった。
今度は、意地の悪い笑みではなく、楽しそうな笑みを浮かべた。





【ヘルタースケルター】



(別に、あんたの陣営に居たわけじゃないし)
(けど、この世界の存在を消そうとしただろ。バカなのかね、キミは)
(それがなんだっていうの)
(そんなことしたら、垣根すらなくなるんだから、僕がおかえりと言ってもぜんぜんいいだろう?)

(とりあえず、意味が分からん)
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