企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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光の粒ははじけて消えた。



声だけが、耳に届いて、その存在は、この世界から姿を消してしまったのを決定付けた。


じわりとあふれた涙は、一瞬にして消えていく。
帳尻あわせが始まったのだ。
彼女がいたことが、すべて無かったことに変わっていく。


気がつけば、俺一人になっていた。
彼女のいた世界は、残すところ俺だけだった。

白い空間、目の前にはノーナがぼろぼろと泣き、へたり込んでいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい…」

「謝るなよ。いままでが、イレギュラーだったんだろ…?」

「…だって、だって好きだったのに。好きなのに、貴方を忘れないといけない…」




うなだれたまま、彼女は俺に手を伸ばしてきた。




「貴方からも、私のいた記憶を、奪わないといけない…。」


聞こえた言葉は、覚悟していたはずのもので。
今は、嫌だと、思っていた。


「…おい、ノーナ」

「ぇ、んぅっ…」




強引に腕を引き寄せて、唇を奪った。
触れることが叶うなら、記憶を失うというなら。
最後に触れるなら、このくらいしないと、意味がなかった。
せめて、願わくば、最後の瞬間が、互いの幸せであれば。


「んっ…ふ、っ…んっっ…ぁっ…。ちょ、っ…ザッ…プ、んっんっ…んー!!」



名前を呼ばれる一瞬も、もったいないくらいに、何度も、深く、暴れようが、抵抗しようが、お構いナシだ。


「ぷぁっ…、ばかっ! ばかあっ!」


白い糸が引かれて、少しずつ、消えてゆく目の前にいる、女の記憶。
するすると抜けてゆくように、思い出から順番に、消えてゆく。


「へっ、いい気味だ。ざまぁみろだぜ?」

「クズめっ!」

「知ってら」

「好き!」

「お、おう…」


突然の告白に、言葉に詰まった。
そしてたじろいだ。


「あたしはっ、ザップが、好きだっっ」

「お、おう。…さんきゅ」



しゅる、と最後の穴から、糸が抜けてしまう。

叫んだ目の前の、彼女に、不敵に笑ってやった。
こんな、ギリギリまで覚えてるなんて。



しゅるり





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「ばか…、ばか。」



小さな言葉が二言、落ちた瞬間、その空間に誰もいなくなった。



そして、一筋の光から、新たな扉が現れる。



そこをくぐるのは、―



【無言の聲】



(終わった物語の幕引きを、誰が見ているというのだろうか)
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