企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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透明度が増した世界は、どうしてそんなに、綺麗でいられるのか、僕には理解が出来ない。
水を通して見える世界はすこし歪んでさえ見える。

そんな名を人は生きているのかと、たまに不思議に思う、おかしな話だ。
僕はそんな世界に身をおくことになった。



「水は綺麗です」



彼女はそう言う。



「けど、綺麗過ぎて、たまに息が詰まります」



それが、怖いんだって思うんです。
水槽越しに聞こえるその言葉は、とても力が弱かった。


「それは、外の世界も、同じなんじゃないですか」
「っ…」


背中越しにでも分かる、その雰囲気は、哀しみ、だろうか。
彼女らしくも無い、とても低いテンションでそれはなんとなく察しがついた。



「水の中も、外の世界も、大差はないのかもしれません」



ごぼ、と浮かぶ泡。
ソレを眺めながら想いを口にする。


「生き辛い世界も、水の中も、嫌だな」
「それは、自分の考え次第じゃないでしょうか」


それはココに来てから気がついたことだ。
理解はまだ完全には出来ていない。
けれど、触れた人の温かさというものは、確かに形をもっている。
その事実を知っていることは大きいのではないだろうか。


「…たまに、自分の考えに自信が持てなくなるよ」


ぽつりとつぶやいた言葉が、今回の落ち込んでいる原因だろう。
こうやってもらしてくれるのが、僕としてはうれしい。
頼られているという感覚が、すこし優越感もあるかもしれない。


「では、そのあなたの考えを、僕が肯定しましょう」

「ツェッドさんが…?」

「僕では、役不足ですか?」



振り向く彼女、ああ、これが水槽の中でなければよかったのに、と今日は心底後悔した。
その表情は、すこし歪んで見えたけれど、とても、切なげなものだった。


「…ううん。…嬉しい、すごく。うれしい」


その表情は、笑顔へ変わった。
水槽越しのその笑顔に、僕の心はごぼ、と泡立った。



【背中合わせだった想いの先】
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