企画展示室

□お題募集企画セカンドシーズン
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暗闇を視界の端に捉え、そこをたどる人影も見えた。
久しく見ていなかった、影の力を持つ者特有の、【闇移り】という能力で、成人すればどんな影から影へも移動することができるようになるというものだ。

しかし、牙狩の表舞台からは既に省かれている能力者の家系、というよりも、滅びてしまったという話を聞いたことがあったのだが、まさか存在していたとは。


「スターフェイズ氏、電話をそのままに。お伝えしたいことがございます」


今しがたまで会話をしていた相手に通話終了を待ってもらい、そう切り出した。



【夜話 〜紳士の執事と、ライブラという組織の場合〜】




ギルベルトは、ラインヘルツ家直属の、三男坊、クラウス付きのコンバットバトラーである。
その名の通り、戦うこともできる執事だ。
秘密結社ライブラは能力者の多い組織であり、それに洩れることなくギルベルト自身も能力を持った人物だ。
身体に受けた大きな損傷を自動修復する、再生者などとよばれたりもするもので、めったにその力を発揮されることはない。
そんなことがあれば、主人であるクラウスの心配の種になることは、簡単に想像できてしまうのだから。



『闇移り? またレアな能力だなぁ。もう何年くらい聞いてなかったんですっけ?』

「かれこれ、10年くらいでしょうか。」

『そうかぁ、大崩落前だったんですねえ。レオスのほうの資料からもしばらくデータが消えていたと思ったら』

「ひっそりと、記録されていたデータも消されていたのでしょう。こちらのほうのバックアップにはまだ履歴として残ってるやもしれません」

『そうだとすれば、また帰還後に確認作業をお願いしてしまいますけど、いいですか?』

「しばらく見なかった闇移りを見て、すこし興味がわいておりますので。」

『ギルベルトさんにしては珍しい。ではクラウスには別の仕事もあるのでそっちを処理してもらっておくとして』

「嗚呼…そうですね。坊ちゃまになにかお土産も差し入れをお持ちいたしましょう、今日はお祭りでしたからね。みなさんの分も、ございますよ」

『もう、今か今かと待ち構えたまま、何人かは夢の中だよ。事故をしないように帰ってきてくださいね』

「おやおや、そうでしたか。では気をつけて帰らせていただきます」




通話画面を閉じ、ふと視線を上げれば、3時間前に終わった花火の余韻に浸っている人々がまだまばらだが残っている。
その様子に、小さく口元をゆるく吊り上げ、ほほえましげに眺めた。

なかなか、こうやってゆっくりと祭りというものに浸ることもございませんからねぇ。

今回、ギルベルトに課せられた任務は無事完遂。
早く戻らなければ、と一息つき、後ろに止めていた小型の車に乗り込んだ。




ばたむ







戻ってみれば、数人のメンバーは帰宅、一人は待ちくたびれてソファにもたれて眠っている。
起きているといえば、自身の主人、クラウスと、番頭役のスティーブン、そして昼間にずっと事務所で仮眠をとっていた最年少の能力者メンバー。
エデンである。


「おかえり、ギルベルトさん」
「待ちくたびれたぜー! お土産! お土産っ!」

「エデン、あまり大声を出すと、レオナルドが起きてしまう」


「ほほほ、お待たせして申し訳ございませんでした。」



持ち込んだ大きな荷物たちを、クラウスやスティーブンが運んでくれる。
そしてエデンはといえば、昼の寝溜めのおかげもあってか元気そうに飛び跳ねている。
そんな姿に笑いをこぼせば、帰って来た、という実感がわく。


起きているメンバーに、本日の戦利品の入ったクーラーボックスを開けてりんご飴と呼ばれる珍しいものを渡せばエデンは泣いて喜んでいた。
聞けば日本のお祭りには欠かせないものらしく食べ方は三者三様なのだとか。


「うわー、HLでりんご飴食えるだなんて俺、思わなかったわー。もーギルベルトさんのチョイスが神がかってて尊敬する…。俺ギルベルトさんとこの子供になりたい…」
「わたくしの主人はクラウス坊ちゃまだけでございますよ。ですが、ここででしたらいくらでも甘えていらして構いませんよ?」
「ふぁー、ギルベルトさぁあああん!」


「だからっ、エデンはうるさい!」









「それで…」
「はい、すこし調べてきましたが、やはり残っていました。」



読みは当たり、三年前の大崩落の混乱に乗じてレオスの異能者登録情報に改ざんされた形跡が残っていた。
その項目は影の力を持つ家系。確かに一部いじられ消された家族が存在していた。

そこからの家族の割り出しをすれば、事実上夫婦が死亡、その子供の行方はわからなくなっていた。

子供の名はノーナ・B・リザデンテ。
その家系は、影の力の直系に当たる
正式な末裔である。

そうなれば、レオスでなくともほしがる逸材、リザデンテ家が登録を消したくなる気持ちも、今なら理解できる。
当時、彼女は17歳、まだ成長過程だ。どんなよからぬ思惑に巻き込まれるか、わかったものではない。



「…それほど血が濃かったのかもしれないですね」
「そして、その少女は、このデータが正しければ今年で20を迎えるわけですね」
「…既に20になっているようですね、5月が誕生日ということなので」
「ふむ、そんな彼女が、ヘルサレムズ・ロットに住んでいる、という事実が表で騒がれれば、大事になりますね」


スティーブンの言葉に、静かにうなずけば、思案するように数歩歩みを進め、腕を組んだ。


「一度、レオナルドくんの力で、彼女と接触をはかってみてはいかがでしょうか」
「少年の力、…義眼か」
「影の一族は最も彼岸とのつながりが濃い能力を持っています」
「…そうなんですか?」
「ええ。影の一族は、闇という存在と密接な関係があるので」

「闇、…彼岸の淵のことか」


どうでしょう?とたずねれば、数度うなずくスティーブン。


「何かあってからでは遅いですからね。やりましょう」






(彼女はまだ知らない。互いに歩み寄る形になりつつあることに)
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