企画展示室
□お題募集企画
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「どうして、そこまでのことが、できるんだ」
「どうして…? 馬鹿なことを聞くのね」
「貴方との、あのときの指切りを、果たしに来たに決まってるじゃないの」
スカーフェイス?
彼女は、そう言って、ドヤ顔でそう僕に告げた。
【星空の下で】
さほど、強くはない力を持っていた彼女。
それがなぜ、こうして僕や、クラウスたちと同じように戦っているのか、聞く暇はなかった。
「しゃべっている暇があったら、少しはサポートしなさいよ。付け焼刃の力まで持ち出してんだから」
ベ、と出した舌にはキラリと輝く緑の鉱石。
彼女はそれをフォトンクリスタルと呼んでいた。
「彼女も言っていたけれど、あたしとあの子はすこしあちらでは特殊な出自でね」
しゅるりと取り出したのは、青い光を放つ拳器。
フォトンクリスタルを、その拳器の抉られたくぼみに押し込めば、その光源は更に明るさを増した。
それを襲ってきた中型の魚型エネミー、ダカッチャと呼ばれた敵に振りかぶった。
ガシュッ ガシュッ ジジジジジッ
独特の音を上げながら何度かその拳器を叩き込めば、食い込むような音に変わっていく。
ヴヴヴヴヴ
そうして消滅していった。
「はぁっ、コモン武器だけど、育てておいて正解だったみたいね」
空気を変えるように息をつくノーナは自分の手に装着したその武器を眺め、目を細めた。
まだ使える、と小さくつぶやき、更に迫ってきているダカッチャの群れにこぶしを向ける。
「さ、こっからが本番よ。スカーフェイス。あんたの氷漬けの力、頼りにしてるんだから」
「…エスメラルダ式血闘道って名前が、あるんだけどなぁ」
「あたしはこっちの人間じゃないから、そんなん知ったこっちゃないわよ。こっちからすればバータとかラバータとか言ってるとこだわ」
「…なるほどね。キミの言いたいことは、よっくわかった。肝に銘じておくよ」
「おう、よろしく。氷使いさん」
互いに構え、先に攻撃を仕掛けるのは、僕だ。
「 エ ス メ ラ ル ダ 式 血 闘 道 」
アスファルトに勢いよく足を下ろし、氷角を作り出す。
そうすればこちらに向ってくるエネミーは粗方凍らせ、足止めすることができる。
そこから彼女は一歩踏み出した。もちろん、両手に嵌めた拳器を振りかぶって、だ。
「貴様らに、あたしの攻撃が見えるかしら?」
ー フ ラ ッ シ ュ サ ウ ザ ン ド ! ―
氷角から逃れたエネミーをまとめて打ち上げ、拳器で一網打尽にする。
その速度は速すぎるため、いくつかの残像が見えるだけだ。
迫ってくる数は確実に減っていくが、攻撃がいくつか追いつかなくなってくる。
半歩下がった彼女が拳器を下げ、腰の万能ポーチから取り出したのは蒼と白で構成された、きらめく結晶が形作る翼のような武器。
「なんだい!? それは!!」
「へええっ?! コレ?! あたしの得意武器、両剣、クリスカリバー!!」
綺麗でしょ、強いのよ? と片手でヴヴンと振り回す姿は、いままでのおちゃらけた彼女とは思えないものだった。
面食らっていれば、更にエネミーが近づいてくるのを捉えた。
「レベット!! 前だ!」
「あいよー!」
返事を聞くか否か、舞え、とレベットがつぶやいたのを、聞き逃さなかった。
ー デ ッ ド リ ー ア ー チ ャ ー !!! −
一度後ろに構えたその武器を、勢いよく投げ飛ばせばブーメランのように回転をしながら敵を薙ぎ払っていく。
戻ってくる頃にはほとんどを掃討した状態になっていた。
「っと、う。ふう、あとは、スカーフェイス、頼むわ」
両剣を上手くキャッチしながら大声でノーナはコチラに叫んだ。
残す一体に、氷剣を模した氷柱を投げつければ、最後のとどめとなったのかすう、と消滅した。
「…はあ、終わりか」
「おう、お疲れさん。いやぁ、この辺は多いんだねぇ、ダーカー」
「近頃やけに多く出るって情報があってね」
「はぁー? ふぅむ、そりゃ、ゲートが近いのかもしんないわね」
この街の霧が、根源に近ければ近いほど濃いのと同じさ。
そう笑いながら、彼女はポケットからフォトンクリスタルの塊、フォトンスフィアを取り出しクリスカリバーに押し当てれば、吸い込まれるようにスフィアが消えていった。
ソレを確認してから武器を片付けていく。
「これ以上は今日はもうダーカーも出なさげだし、撤収しますかー。スカーフェイスは? どうするの?」
「ほかにももともと用事があったからね、時間はおしてるが、大丈夫だろう」
「んー、そかそか。しっかし、霧が濃いっていうのに、きちんと夜空は見えるんだねえ」
遠くを眺めるように、彼女は空を見上げ、若干目を細めた。
僕も上を見れば、霧の隙間から、確かに少なからずちかりちかりと瞬く光星が確認出来た。
しばらく星を見上げることなんてご無沙汰であったが、街の明かりに負けているというのもあり、すこし残念だとおもう。
「もう少し、時間が遅ければなあ」
「え?」
ぼんやりつぶやけば、聞き返すようにレベットがこちらを見た。
首をかしげ、どうした? と言いたげである。
「深夜なら、もう少しくらいは星も見えるだろうに、とね」
「ああ、確かに。そうね。」
ふふ、と笑う彼女は楽しそうだ。
さて、と更に言葉を続け、この場を去るという旨をこちらに伝えてきた。
僕はお疲れ様、と声をかけるが、レベットは困ったように眉毛を潜めた。
「これが仕事だもんよ。お疲れ様はそっちでしょ」
じゃあね、と手を振り、まだ星の瞬きが明るく見えそうな方角へ人ごみにまぎれていった。
(さて、僕もいくか)