企画展示室
□お題募集企画
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「エイブラムスさん、今日は奥方は一緒じゃないのですか?」
俺は、そういえば、といつも奥方の所定位置、エイブラムスさんの後ろを覗き込んだ。
しかし、あの小ぢんまりとした肩は見当たらず、豪快な彼の笑い声だけが事務所にこだました。
「はっはっは! いやぁ、残念ながらワイフは今回は不在なのだよ。彼女も最近はあちらこちらに引っ張りだこでね?」
そこまで聞けば、今回の彼の訪米途中に起こった事件は最悪の事態だったのか、と目を細めた。
ブリッツ・T・エイブラムスは、吸血鬼の対策を立てさせればぴか一の専門家だ。
ライブラのリーダー、クラウス・V・ラインヘルツの師匠である。
しかしエイブラムスさん自身には異能の力はない。
だが、その知識、対応力などで吸血鬼狩りには欠かせない人物だ。
そのせいもあってか、そこに関係する各方面から恨みを買うのは日常茶飯事、呪いや祟りも当たり前。
なのだが、その呪詛などの効果はすべて、自分以外に飛び火する。
まぁ、つまるところ、迷惑千万、トラブルメーカーというかんじだ。
そんなエイブラムスさんには、早十年連れ添っている奥方がいる。
初めて彼に紹介されたとき、本当にエイブラムスさんと同い年なのか?と疑うレベルの幼さだったのは、衝撃的だった。
人見知りで、いつも彼の後ろに隠れてこそっと顔を出す、どこかの妖精か?!と頭を打ち付けたくなるレベル。あの時は3徹目だったせいもあって危うくやりそうになった。
名前をノーナさん。
エイブラムスさんの呪いを緩和させることが出来る唯一人の人物である。
もともと、クリスチャンの彼女は、特に神の加護が強い、というより、とても運がいいのである。
そんな正反対な二人が、何故結婚したのか。
ある日運悪くエイブラムスさんと出会ってしまって、初めて呪いに当てられて転んでしまったからだという。
そこに彼が手を差し伸べたことが、すべてのはじまりだったそうだ。
「何回聞いてもいみがわかんないっすよね、それ」
あんなに可愛いのに○○歳とか、詐欺どころの騒ぎじゃねえですって。
初対面のときに、彼女を口説こうとしたザップは、いまだに信じられないといった口ぶりである、
それは激しく同意できるが、口には出さない。
だが、彼女に会ったことがないレオナルドからすれば、頭をかしげているのが正解だ。
「そんなに若く見えるんすか?」
「おうともさ、小動物みたいな風貌でな? すこし控え気味なんだよ…おずおずとこっちを見てくるそのまなざし…!」
「ザップさんってロリコンだったんすか?」
「…は」
思わず力説していたのはいいが、その風貌の説明から結論付けてしまうと、そういうことになる。
ん?俺は口に出していないからセーフだろう?
【まだレオナルドは、夫婦のそろった姿をみたことがない】
(それで、忙しいって、どういう仕事をしてるんすか?)
(アイドルだよ)
(え?)
(今はオペラ歌手に転向したそうだよ)
(え、いや、え? 人見知りなんじゃ?)
謎が深まる豪運の男の嫁