企画展示室

□お題募集企画
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エデンは嗤っていた。
この、実に愉快な現状に。

ある日この世界にやってきて、変な王たちに魅せられた。

もろくて、愉快なこの世界に、パーティを催そうじゃないか!と誘われた。
そのための大事な役者が、ライブラという組織だった。

秘密結社だとかいう、ぜんぜん秘密じゃない組織。
王、主にコレは堕落王の娯楽が主になるのだが、彼の起こす事件には必ずライブラが参加する。
というよりも、その娯楽を収束できるのは、ライブラくらいしかない。
実に彼らはユニークだ。

その身体に異能を住まわせ、この世界の均衡を守ろうと日夜悪戦苦闘する。
しかし、彼らと遭遇するごとに、彼らの真の目的は、均衡どころの騒ぎではないことも、わかってきた。



血界の眷属、という最強の改造人間の存在を滅すること。
それが、本来ライブラ内に所属する【牙狩り】と呼ばれる者たちの役目だった。



「なあ、クラウス・V・ライヘルツさん」



ある日、ライブラのリーダーと食事先で出会った際に、聞いたことがある。


「どうして均衡を守るんだい?」

「それは、方法という意味かね。それとも」

「なぜ、ホワイ?っていみさ。俺からすればそっちの事情何ざなんも知らんわけなのだし。まあもちろん、そちらに歩み寄るなんてこともないけれど」



からん、とグラスに入った氷だけが音を立てた。
俺が言えば、彼はすこし残念そうな顔をしたのが見えた。
もちろん、背中合わせな状態だから、俺の場合は窓ガラスに映った横顔だけだが。


「        」
「異能をもっているから?」
「それだけではない」


即答、かー。と小さく嗤い、納得はした。
やっぱり、俺は彼らとは、相容れないなぁ、と。


「やっぱ、俺はあんたら側にはいけねーや。きっと、レオナルドをだめにする」


眼も、あの硬い意志も。


「そうは思えないのだがね…」
「そうやって、買ってくれるのはうれしいけどね。」



じゃ、おれは行くわ。またね、ライブラさん。口早にそうまくし立てて、俺は一方的に席を立った。
偶然出会ってしまっただけだ。そして、食事も用も済んだのだから、去らねばならない。
ライブラのリーダーは席を立ちかけたようだが、俺が気配を消したせいで、目視ではもう追えないだろう。






「でもさぁ、俺、だからっていって、」


ジャギギギッギ


「血界の眷属(そっち)側にいるつもりもっ!」


ギャギャギャギャ


「ないからよっっ、と!」


タッ、ジャリッ




目の前で変体してゆく、いや、再生していくその存在は、彼らの言っている、吸血鬼。
【俺】という存在が、ありえてはならないのは俺自身が理解していることだ。
だが、ここに、この世界に引き込まれてしまったのには、何か意味がある。だから俺はまだ生きている。


「俺は、まだ死ぬわけにはいかないんでね。悪いけど」


自分の視線にちらつく文字は、きっとレオナルドの義眼と似た何かが見せるものだろうが、まず、読めない!
何語だ!?これ!


そう考えてる間に、さらに攻撃が襲ってくる。
左足の二度蹴りステップですばやく避けるが、防御にまでおっつかない。
なんとかそこから回避につなげられているが、これもスタミナの問題だ。いつ動けなくなるかもわからない。


ジャッ、ズジャッ



『御主には、死 を与えねば、 ならない』



対峙する相手は、そう低い声で俺に云う。
首から伸びる大きく真っ赤な鎌のようなものが、触手に変わり、俺へ勢いよく伸びる。
回避しようにも、これはっ…


ビュルルルル


「ぐぁっ…」


足と指が絡め取られて、アスファルトに叩きつけられる。
頬と腕を打ちつけ、喉からは苦悶にも似た奇声が出た。なん、だ、これっ。

思考だけがやけに冷静で、嫌になってくる。



あちらは浮遊していて、音もなくこちらに寄ってくる。
こちらは叩き伏せられて、身体が動かない、
頬からは先ほど叩き伏せられたときの衝撃で負った傷から、赤くて黒い液体がうっすらと垂れる感覚がある。


ああ、この血が、ライブラのあのクソザルみたいに、動けば。



「動くわけ、ないのになぁ…」



そう簡単に、いくわけない。
俺は、ニンゲンなんだから。そう、どこにでもいた、ニンゲンだったんだから。





【血にまみれた宴】




(俺、死ぬわけには、いかないのになぁ)
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