企画展示室

□お題募集企画
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「うーん、やっぱそうだよなぁ」





【疑問とコーヒーな一日】




「どしたの? ノーナ」
「うん、いやさ、前々から思ってたことがあるのよ。」



それはちょっとした習慣の際に気がついたこと。
似た香りを嗅いだこと。

ああ、そうかと気がついてしっくりはきたけど、納得はいかなくて。


「コーヒーの香りってさ、タバコの香りに似てるよね。」
「へえっ?」


さすがのビビアンも、目を点にした。
目の前でミルクと砂糖をそこそこ入れたコーヒーを口にしながら、この子は何を言っているのだという顔をしている。
けれど、彼女の疑問はそこから頑なに動こうとしない。


「似てないかなぁ、このなんともいいがたい芳ばしい香りというか」
「というかノーナってタバコ吸わないじゃないか」
「周りには吸ってる人間いるし、街中にいればそりゃにおいもするっしょー」


まぁ、そりゃそうだけどさぁ、とまごまごとつぶやくビビアン。


「なんでだろうねぇ」
「しらないよー。それこそ、検索してみたらどうなの?」
「既に調べたあとだってー。まともな結果がないのよねー」

ほらみて、と端末画面を見せられれば、確定的な回答はあまりみられない。
憶測ばかりで、論文なりの結果などは数が少ない。
つまるところ


「そういうにおいとして認識してるヒトもすくないってことかなぁ」
「ボクは似てると思うよぉ〜」


ん?と彼女とビビアンは振り返れば、こんにちわーバーガーくださーいと言っているキノコ型の異界存在。
レオの友人、ネジだった。

「ねじぃ!! どうしたん、珍しいじゃん」
「うーん。レオくんに誘われてね? 来たんだけど肝心のレオくんが今電話中で外なんだぁ、バーガー四つで!」

あいよーとビビアンはキッチンで作業をはじめた。
隣、大丈夫ー?とネジに聞かれ、ノーナはどうぞーとすすめる。

「あ、食べかけでいいなら食べる? ここのバーガーほんっとおいしいんだよー」
「ええーっ! いいのお!? じゃあ遠慮なくいただきまぁーす!」


はぐ、はぐっと美味しそうに食べる彼を尻目に、先ほどの話を彼女は再び切り出した。


「ネジくんはタバコとコーヒーの香り、似てるって思うんだ?」

「ボクは飲まないし、吸わないんだけどねぇ。ノーナちゃんと同じで、地元とかで飲んだり吸ったりってヤツはいるからさー」


ほい、特製バーガー。とビビアンがネジの前にバーガーの四つ乗った皿を差し出せば、これでもかって表情で喜びを表すネジ。


「このバーガーおいしい〜〜! ボク、ジャック&ロケッツくらいしか食べたことないからわかんないけど、ここのバーガーすっっごくおいしいよお〜!」
「お〜よかったよかった。そんなにすきなんだねぇ、バーガー」
「はいバーガー!」
「食いしん坊さんだ、ほい、おまけでポテトを進呈してやろう」


ノーナはうれしそうに二つ目に手をつけているネジにポテトの載った皿を置いてやる。
そうしたらネジはボクはバーガーがいいのですバーガー!とか言うもんだからビビアンと二人で笑ってしまった。


「ははっ…! ネジくんはほんっとすきだねぇ」

「えへへー」


「これで二人目か〜ほかにはいないのかなー」

「おまたせーってぅわ、もう食べてるし。はやっ」

「レオくんおそいんだも〜ん」


「悪い悪い。職場のヒトとちょっと揉めてね〜」
「ザップだ?」
「そそ。って、ノーナさん! ここにいたんすか?! ギルベルトさんめっちゃ探してましたよ!?」
「あー、そういや端末事務所におきっぱだったわー。あははーすまんすまん」
「クラウスさんも心配してます。これで連絡してきたらいいですよ」


はい、どうぞ。とレオは自身の端末をノーナに手渡す。
それを受け取りはしたが、彼女は直ぐに突っ返した。

「いーよ、今日くらいサボらせてくれよぉ〜」
「だぁめです。じゃあボクが連絡しちゃいますよ? めんどくさくなりますよ?」
「あ、それは困るわ。番頭にこってりしぼられコースやんそれ」
「すでにそうなること確定してそうですけどねー」
「こんの、自分に関係ないからってひどいなぁ」


はぁーとため息をつき、再度端末を受け取る。
通話画面を呼び出せば、連絡する先はチェインだ。


「もしもーし」

『早くお戻りくださいませ』

「うぅわ、ばれるの早っ。ねえーギルベルトさぁーん戻んなきゃだめー?」

『ノーナさんに依頼したいとのお話なので、戻っていただかないと…』

「だれだよーそれぇ、わかりましたぁ。かえりますぅ」



チェインの端末にかけることは既に想定済みだった様で、次からはもう少し考えて連絡するかぁ、とぼんやり考える。
ありがとーとレオに返していれば、ビビアンがバーガーをテイクアウト用に包んでくれていた。
あれ、それ。


「あたし頼んでないよ?」
「さっきネジくんにあげてたでしょ。彼からおごりですって」
「え、イイノ?ネジくん」
「いいよ〜!いつものお礼だと思ってよぉ〜」






「ったく、ロジオさん。ちょっとはスティーブンさんとかにも頼んでよ…」

オラクルにいたときと大して変わりないじゃん…とため息をつく。
依頼主は、オラクルから一緒に飛ばされてきたロジオさんで、いつもどおり、地殻調査と濃霧観測への護衛だった。
たまには別のヒトを頼んでください、と言えば、どうもやりづらくてって、それじゃいつまでたっても馴染めませんよ?とため息。

数週間であたしなんていろいろ交渉やらせにゃならんからここまで馴染めてますけど。




さらにため息。
ふと顔を上げれば、なにやら用事をしているらしきギルベルトさん。


「もどりましたー」
「おや、お疲れ様でございます」
「つかれましたー。あ、これついでにおいしそうだったんで。どぞ」


帰りしなにわざわざロジオさんに買わせたのは、ふわふわとした生地に甘い漉し餡の挟まれた、どら焼きという食べ物だ。
人間しか入れないという区域のため、なんとか材料が輸入できているらしい。
一口食べただけでふわふわほろほろととろけ、さらに追いかけるように漉し餡の甘い味わいが口いっぱいに広がる、至高の一品である。

これをぜひともギルベルトさんの入れたコーヒーと一緒に食べたくなったのだ。
もちろん、ライブラのメンバー用にもいくつか買ってある。
ザップのはない。



「こ…これは、どら焼きではないですか…!」
「あ、やっぱご存知ですか」
「霧に包まれてからは本当にあちこちの有名外国菓子の店舗は撤退の一途でしたからねぇ。日本の菓子店は取り扱っている材料がどうしても異界存在に狙われやすいものを使っているそうなので…」


どら焼きも、そのひとつですね。口元を緩め、心底うれしそうな表情をしたギルベルトが見れただけでノーナは割と満足してしまっていた。


「食べましょう。あたし、ギルベルトさんの入れたコーヒーを傍らにおいて食べたくって。皆さんの分もありますし」



ぜひ…!





「ほぁ〜…これは、やさしい味だなぁ…」
「これ、とらやのどら焼きだよね、高かったんじゃないの?」

「最近あたしをパシるロジオさんに買わせました」


「…おおう、なかなかにフラストレーションがたまってるねぇ、ノーナ」
「そりゃそーです、周りと接点すら持とうとしないんですから」
「研究者ってそういう傾向は強いっていうからなぁ、もうすこし時間をかけてやったらいいんだよ」
「そうは言っても今週はこれで三回目ですよ?」


そろそろ勘弁してほしいです…とスティーブンに愚痴れば、苦笑いを返されてしまう。
これでも、彼女だって交流は発展途上中だ。まだ距離感はつかみきれないし、難しい。


「ああ〜、でもおいしい…、コーヒーとも合う…ふぁあ」
「うむ、上品な甘さ、やさしい食感、どれをとっても一級品だな」


「そういえば、コーヒーで思い出しましたけど」


はた、と今朝からずっとしゃべていた話題をここでも出すことに。



「コーヒーとタバコの香りかぁ〜」
「モノはぜんぜん違うのに、なんでかなぁって」
「焙煎だろうか?」
「それは検証サイトとかでも言われてますねー。植物を焙煎してますし」



ここでもそれらしい答えは得られそうにない。
そう思い、落胆していれば、ずかずかと扉を開けて入ってきたのは、ザップだ。


「おうおうおうおうおうおう、なぁんか旨そうなにおいがしたからきてみりゃ、こりゃどら焼きじゃねーか。なっつかしいなぁ」
「てめーのはねーよ」
「ああん? なんだよ、三流」
「なんだよこんの…うん?」


すんすん


何かに気がついたのかノーナはザップに近づきにおいを嗅ぎ始めた。

「あんだよ?」
「あんた、今日タバコ違うでしょ、安いタバコの香りがする」
「はあ?」
「違う…めっちゃいいコーヒー飲んできたんだ! わかったあ!」


「いや、ぜんっぜんわかんねぇ」




「わかんないけど、安いタバコの香りは、いいコーヒーの香りに似てるってことで」
「その結論、絶対おかしいとおもうんだ」



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