企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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「だあああああああああああああああああああああああ!」
「うるさい」
「これが! 叫ばずに! いられると?! 思ってるのか!?」
ぺいっ
べしゃっ
「っつぁーーーーっっ!!! 何すんのよ! このっ、バカ兄!」
勢いよく投げつけた枕は、更に強い力で反撃され、ものすごく、痛い目にあった。
仕事の関係でヘルサレムズ・ロットへ来たのはいいけれど泊まるところがなかったわたし。
嫌々ながら五年ぶりに、血自体はつながっていないが、どこか似ているとよく言われる兄、スティーブン氏のお宅にお邪魔することにした。
血がつながっていないっていうのに、どうして似てるといえるのだろうか、わたしは意地悪なこの腹黒兄貴がだいっきらいだった。
昔も、…今も。
「あのねぇ、突然、自分のベッドで、妹がそんな末恐ろしい叫びを上げてるの聞かされてる兄の身にも、なってくれないかなー」
なあ?とベッドに腰を預けるスティーブン氏。
その衝撃ですこし跳ねるスプリング、ふっかふかだな?
呆れた表情でため息を吐く横顔は、相変わらず、腹が立つほど色気に満ち溢れている。絶対狙ってる角度だろ、貴様。
ぶすーっとした顔でいれば、おーい?と覗き込まれ、反射的に手元に残った枕で叩き伏せてしまう。いや、そりゃ、そうなるよな?!な?!
「…お前ねー…」
「うるせぇ、その流し目みたいなエロい動作やめろ、妹相手におかしいだろ。おい」
「…ん? ……ん?」
「首!! 首かしげんな! 小動物か! なぁに?みたいな顔するなよ!」
じゃーどうしろと、と言われれば、うぐぐぐ、と口ごもってしまう。
視線をそらし、考えながら、ベッドを降りる。
スリッパに足を入れ、ぺたらぺたら、と居間に向かう。
「よし、ソファで寝ることにする」
「普通逆だ、バカ」
「ふおおうっ?!」
口にすれば真後ろから即答が返ってきた。
酷い声が出て、振り向けばやつがいた!
てし
チョップで後頭部を軽く叩かれれば、割かし痛い。
なにすんだよぉ!と抗議すれば不敵な笑みを浮かべるあたり、 確 信 犯 で す ね 。
本 当 に あ り が と う ご ざ い ま せ ん !
「落ち着かないなー、お前は。相変わらず」
「……なー。兄ちゃん。誰のせいでここまで落ち着かないと思ってる? それ、分かってて言ってる?」
低いトーンで言えば、困ったように笑うスティーブン氏。
やっっっぱり、確信犯じゃねーか。このやろう。
「ノーナこそ、わかってて、俺の家に来たのか?」
「アホですか。ここまで自分の城みたいな香りさせてるとは思わなかったわ。」
特に、寝室はね。そう口にするときのわたしは、反吐を吐きたくなるほどの表情をしてるんじゃないかと思う。
本当に、ここまで香りが強いだなんて、思いもしなかった。
だから、冒頭の叫びにつながったわけで。
こなきゃよかったって正直思ったわ。けど、けど。
「いつから、」
「気づいてた?、って?」
それこそ、バカだなぁ。といわれ、何か違和感を感じていた。
まさかと思い、恐る恐る疑問を口にする。
「香りに弱いの、知ってたの…?」
「もちろん。何年お前の兄やってると思ってんだよ」
うに、とわたしの頬を片手で軽くつまみながら笑う兄。
その動作の隙のなさもだが、ナチュラルにこちらに触れてくるなんというか、軽い感じ。
昔はまだましだったが、いまじゃ使いこなしてますってのが分かる。
「腹立つ…。だからあんたのこと嫌いだったんだよ、スティーブン氏」
「その呼び方は、香りを自覚した頃から使ってたということで、いいのかな」
「…わかってるならいわなくて…っっんっ」
「ほんっと、キミは愚かで、それでいて、可愛い俺の大事な、大切な妹だよ」
「…っ〜! シスコンかっ! なんかいろいろ女性遍歴が見えるね! 見えるわ! こうやっていろんな女を落としてきたんだわ! きっとそうだわ!」
「…えっと」
「ナチュラルにこんな触れられるのは、普段から手癖が悪いからだろうね! 息をするように女には手当たりしだいなんだわ!」
「…おい」
「けど、そんな兄ちゃんが昔から好きだったあたしが一番最悪よね! ほんと!」
さきほどの距離から大して変わらない間隔で矢継ぎ早にしゃべって見せれば、ついていけないのかポカンとした表情でこちらを見下ろしている。
ソレをいいことに最後にこう、言葉を付け加えた。
「わたし、春に結婚するから。」
【もうすぐ春がきて 貴方を好きだったわたしは 結婚する】
(どうだ、ざまぁみろ)
(それは、衝撃だな…。)
(そうだろうそうだろう)
(で、時間変わって今日はエイプリルフールなわけだけど)
【という嘘をついた】
(は…春ですね!)
(とりあえず、いろいろ確認したいことあるから、ベッドにいこうか?)
( お 断 り し ま す ! )