廃倉庫
□異端考察
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漂う星屑の幻の中、私は、『私』を見た。
もう、昔の話。
それは、『私』と俺が初めて入れ換わった日の話。
異端考察
-T-
「なンだ、ここ」
突然、目の前に古いコンクリート打ちされたビルが現れた。
有り得るハズのないことだ。
……いつも通る道、のはずだ。
何故か、その思考自体に違和感を覚えた。
現れた、そう、その表現が一番正しい。
先に書いておくが、この物語はファンタジーではない。
かなり残酷な、現実だ。
毎日どこかで、誰かが産まれ、そして誰かが死んでいる、恐ろしい世界だ。
だけれども、こんなこと、ビルが現れたなんてことはーーーーーーーーーーーー
有り得ない
そう思考が結論づく直前に、俺は"気付いてしまった"。
自分が、つい今しがた一瞬だけ耽っていた『記憶』の異端さとどれ程の差があるのか、と。
「うちのビルの前で何をしてるのかしら?」
思考に、再び手首を掴まれる寸前、よく通る高い声が、背中に当てられた。
当てられた、嗚呼、言い得て妙だ。
高い声は、やんわりと言葉を作りはしたが、歓迎されている雰囲気の、"それ"ではない。
"帰れ"、と罵倒され石を投げられた様なーーー
「そこまで、わかっているなら、立ち去るべきよ」
いつの間にか、思考の手首を、知らない手が掴んでいた。
少しばかり固く、しかし性別特有の柔らかさ。
そして声の主は、もう片手で、刃物をこちらの背に当てている様な"優しい声色"で俺に勧告した。
「偶然"気付いて"しまっただけなら、ね」
しまった、と思うより前に、身体の力を膝から崩される感覚が先に襲ってきた。
俺はーーーー
言葉の裏の解釈を間違えた、らしい。
刃先は、ーーーー喉元に、向けられていた。
更には、その事実に"気付いてはいけなかった"のだ。
言葉は、新しい紙で指を切るような音をたて、俺の喉を割いていた。
……これは、意識の"死"だ。
嗚呼、そうだ、ビルは"いつも"、"何故か"視界から"逃れていた"ではないか。
それを はっきり と思考しながら……。
そして、"私"は、意識を失った。
現実では、"何も起こらなかった"のだ……
***'***
灰色にも似た水色の短い髪を揺らし、魔法使いは、音を立てず早い足取りで、思考の行方を追う。
「……敵を間違えている」
そんな言葉を、微かに吐き出しながら……。