企画展示室
□お題募集企画セカンドシーズン
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「ん…ぅ…?」
目を開ければ、その視線の先には、番頭が居ました。
【膝枕と番頭】
「おおう、番頭さんじゃないですか」
「やぁ、目が覚めたか」
目覚めの最初の景色が、まさか番頭のイケメン面だとは思いもしなかったでござる。
おっどろいたわぁん。
「ええっと、この状況は、膝枕っすかね」
聞いてみれば、そうだ、とうなづく番頭、
話を聞けば、先ほどまで一人酒をしていたのだが、吞みすぎて寝込んでいたところに番頭が事務所に戻ってきたのだそうだ。
そんで介抱してくれて、現在膝枕イェーイなのだとか。
なに、膝枕イェーイって。
[ノーナ は 混乱している]
確かにザップが早々に帰ってしまって面白くなくて自棄酒を呷っていた記憶だけは残っている。
ほどほどに、とギルベルトさんに釘を刺されたような気もする。
そしてこのざまである。
おお、勇者よ情けない。
そもそも私は勇者ではない。
[ノーナ は まだ 混乱している!]
「まぁ、何はともあれ、介抱ありがとうございます」
このまま寝ていたら確実に私はマーライオンよろしくマウスリバースをしていたであろう。
酒を飲んだ後の私の酔っ払い方はとても酷い、とはレオナルド談である。
普段はあまり話すことが無い番頭だが、こういう優しさには素直に感謝すべきだと本能が告げている。
そうしてお礼を言えば、いいんだよと彼は苦笑いをこぼした。
「大事な事務所の床を汚されるのも、さすがに困るからね」
「確かに、クライアントから不評をかえば大変ですしね」
たははと笑って見せはするが、寝起きというのと、酔いが冷め切っていないせいなのか少しばかり頭が痛くて表情が歪む。
その表情に番頭氏は目ざとく、心配そうに大丈夫か?とたずねてきた。
綺麗なお顔が近いと割かし拒否反応出ます。イケメンは近づく無かれ。
あ、既に膝枕されているではないか。
「なんかよくわかんないけど、敗北感」
「介抱している相手に対して君は失礼だな」
引きつった笑みを浮かべる番頭、スティーブン氏。
確かに、これは失礼な言葉だったようにも思えたので、すみません。と謝る。
「まあ、いいけれどね。君とこうやって一対一で話をすることはめったにないから」
言われてみれば、確かにそうである、
普段は誰かとセットなので仕事のときもそうだが番頭と二人きりというのは稀だ。
しかも仕事以外なんて初対面の時以来ではないだろうか。
あの頃はただただこの番頭という人物がよく分からなくて怖かった記憶がある。
「初対面したとき以来じゃないですかね。ふたりきり」
「ああ、あの時はクラウスの代わりに君への応対をしたんだったな」
「そうですそうです。あのときの番頭さん、ピリピリしてて怖かったです」
「む、割と気を使ってたつもりだったけれど、心の中はお見通しだったかぁ」
困った顔で笑う彼は、手持ち無沙汰だったのか、わたしの頭を優しく撫で始めた。
たまに髪を指で梳かれれば、こそばったくて小さな声が出る。
「っん」
「ん、ああ。ごめん。つい」
「や、ちょっとくすぐったくって。あんまりそういう撫で方されることないので」
「そうなのかい? てっきり」
「てっきり?」
「…ああいや、なんでも。いや、いい機会だからきみに聞いておこうかな」
一度は言いよどんだ言葉を、彼は尋ねようとコチラに顔を向けた。
膝に頭を預けたままの私はソレを見上げるしか出来ない。
なんだろう、という感じで次の言葉を待つ。
「ザップとは、どういう関係なんだい」
「いや、前言ったような」
「アレ、本当だったのかい?」
『友人です』
「ええ、本当です。一度は襲われかけましたけど、未遂ですし。それ以後はなんもしてこない良い友人ですよ」
そう伝えれば、すこし驚いた顔をする番頭。
まさか、そんな。と言いたげな顔だ。
まあ、あのザップがそれ以上手を出してこないなんて、珍しいのはわたしも同感ではあった。
「だけど、異性としての興味が無くなった。ってしつこく言われたら、じゃあ今後もオトモダチとして、よろしくとなります、よね?」
「あの、ザップが、かい?」
「胡散臭いでしょうが、実際問題手を出してきてないということは、そういうことなんじゃないでしょうか」
そうすれば番頭は考え込むようにすこし視線を上げた。
真下から眺める番頭の顔立ちは、とても整っていて、形のいい唇に頬に見える傷。
長いまつげ、ふわふわの髪。
気づけばわたしは番頭に見ほれていた。
やっぱり、イケメンだ。
(ん? 見ほれて?)