かいたもの*
□箱
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「ちょっ…人がいるのよ…バカじゃないの!?開けてよ!!開けてったら!!」
目の前の無機質な扉を両手で叩きながら助けを求める。
しかし、扉の向こうからの返事は一切なく、ロックが解除されることはなかった。
「どどど、どうしようシェリル〜〜〜!!」
ルッツが隣で青ざめながら慌てふためいている。
うるさいっ男のくせに!アンタが元凶のくせに!!!どうしようはこっちのセリフだ!!!!!
「俺たちに気づかずに船が出航したら…俺ら、アレク達と離れ離れになっちまうぜ…?」
「そ、そんなの分かってるわよ!!」
私の声が不覚にも震える。
こんなところにこいつと二人きり…いやいやいや!!絶対気が狂う!!!
今の状況を簡単に説明するね。
男女二人(つまり私とルッツ)が、大人二人がようやく入れるような小さな小さな部屋に、閉じ込められたの。うん…閉じ込められたの(大事なことなので二回言いました)。
なんでこんなことになったのかというと…
私たちはギルドの依頼で、船に積み込む荷物の運搬、整理を頼まれたのよ。
アレク、ヴェルハルトは力持ちだから(?)港で荷物を船に積み込む作業。
テオとマーシアはその指示を出すっていう役割分担だったのね。
で、私たちの役割は…
ちょっと時間は数十分前に遡る。
「ルッツ、このアイテムはなに?」
「ああ、それは万能薬な。復活の薬と間違えないように別の箱にいれろよー」
アイテムに詳しいルッツと、銃に詳しい私は、実際に船に乗り込み、荷物の整理をする役割があたった。
「二人きりの作業だけど、喧嘩しないでね」
アレクの爽やかな笑顔を思い出す。
わかってるわよ、と苦笑いをしながら胸の中で呟く。
依頼は正確に早くこなしたいからね。
ルッツと喧嘩してる暇なんてないわよっ。
「よし、だいたい整理は終わったわね、じゃあこの荷物を依頼主に言われたところに運びましょ」
「うわああ…めっちゃ多いじゃんよ〜めんどくせえなあ」
ルッツの軽口を注意して、私たちは大きい箱を手にいっぱい持って廊下を移動した。
「ん?」
「なに、ルッツ、さっさとしないとアレクに怒られるわよ…」
「や、シェリル見てみろよ、変な扉がいっぱいあるぜ」
しばらく歩いてから、右手に分かれ道があり、その奥に伸びる廊下には左右の壁どちらにも小さい扉がついていた。
「確かに…」
「なあ、シェリル、少し見てみてもいいか!?」
にやりとルッツが子どもみたく笑う。
またこいつは…余計な好奇心を働かして…
バカなことを言うなと、怒鳴ってやろうと息を吸いこんだとき…
アレクの「喧嘩しないでね」という言葉が頭をよぎった。
…まあ、見るくらいならいいのかな。
すぐに仕事に戻ればいいし。
「ちょっとだけならいいんじゃない?」
「いやっほう!!なんかシェリル、今日は優しいなあ〜!」
そんなことを言いながらルッツが荷物をそこらへんに置き、右に廊下を曲がる。
ああ、バカって扱いやすいわ…。
私がそんなことを考えながら、廊下の先のルッツを見ると…いなくなっていた。
え?
ルッツがどこにも見当たらない。
私も荷物を足下に置いて、右に廊下を進む。
え?もしかして、どっかの部屋に隠れたの…?
も、も、も、もしかしてアイツ、仕事をばっくれやがった!?
かあ〜〜〜っと頭に血が上る。
むかつくむかつく!!アイツ、人の気遣いを踏みにじって!!!
私の足は自然と速足になった。
「バカルッツ〜〜〜!!!出てきなさい!!」
私は右に左にと、扉を見やりながら、隠れたルッツを探す。
「どの部屋に隠れたのよ…!!」
長い廊下に並ぶ小さい無機質な扉はどれも同じ外見で、どこにルッツがいるかなんて見当もつかない。
薄暗い廊下に同じ扉がとにかく続く。
…少し不安になってきた。
「バカルッツ…どこ---キャッ」
ぐいっと手ををひかれ、突然開いた扉に体を持っていかれる。
「びびってやんのーー!!」
「…っ…ルッツ!!?」
目の前にはルッツの薄い胸板があって、抱き寄せられる形で、私は小さい部屋に連れ込まれていたのだ。
きしししとルッツが私の頭上で笑っている。
体が密着している。
は、恥ずかしい、こいつは恥ずかしくないのか。
ぐるぐると色々な思いが頭を巡って、とっさに言葉がでなかった。
「驚いただろ?」
ルッツが体を離し、シェリルを見下ろす。
驚いたもなにも…
混乱して言葉を詰まらせていると…
『重量の変化を確認。進化した可能性あり、扉を強制的にロックします』
「「え?」」
私とルッツの声が重なる。
『繰り返します。重量の変化を確認。進化した可能性あり、扉を強制的にロックします』
ブシューっと音がして、背後で扉が閉まった。
ガチャンと鍵がかかる音がする。
「え…なにこれ…」
私は弱弱しく呟き、ルッツを見上げると、コイツも目を見開いている。
「つまり…閉じ込められたの…?私たち…」
で、最初の話に戻るってわけ。
*