かいたもの*
□子ども
1ページ/4ページ
ほんっとにアンタってばガキね!
何度言われたかわからないシェリルの言葉に、ルッツはいつも反抗していた。
うるへー!俺様は子どもじゃねえよ!
*
ある夜のことだった。
メンバー5人は森に野宿をしていた。
アレク達はギルドの依頼のため、この森にモンスター討伐に出掛けていた。
比較的楽に依頼をこなせるだろうと踏んでいたいたアレクの予想に反して、最後のモンスターを倒す頃にはすっかり日は落ちていた。
アレクは危険な森で野宿することをさんざん渋ったが、体力を消耗した状態で夜間の森を抜けることのほうが危険と判断し、木々の隙間の開けた場所で野営をすることになった。
「あ゛〜さすがの俺様でも今日はクタクタだぜ」
ルッツはあくびとともに声を吐き出す。
そんな親友の姿を見たアレクが苦笑いをしながら言う。
「ルッツ、もう寝たほうがいいんじゃないか?」
たき火を囲う少年二人。
その少し離れた木の根元には、テオとマーシアがすやすやと眠っていた。
そのもうちょっと離れたところには、ヴェルハルトが立ったまま木の幹にもたれかかるようにして見張りをしている。
「俺ならだいじょーぶだぜアレク」
なぜなら天才だからな、と付け加える。
「なあ、アレク」
「ん?」
アレクがルッツを見やる。
ほの暗い彼の表情がたき火の明かりに照らされて、にやりと笑う。
「ヴェルハルト、絶対立ったまま寝てるよな」
*
「それにしても、ちょっとシェリル遅くね?」
「そうかい?」
シェリルはというと、モンスターとの戦闘で汚れた体を洗うと、少し前に近くの川に向かっていた。
「えっ、おせーよ体洗うだけだろ?俺なら5分で終わるぜ」
ルッツの呟きにアレクがすっと目を細める。
「…女の子ってのは、お風呂は長いものなんだよ」
爽やかな青年の言葉に、おバカさんはきょとんと目を丸くする。
「女の子…?あの銃バカが…?」
まるで意味が分からないとルッツは首をかしげる。
「俺様から言わせれば、シェリルはそこらの男より男だぜ」
けっけっけっと笑うルッツ。
そんな親友の言葉にアレクは少し項垂れながら言う。
「でも、シェリルの帰りが遅くて心配なんだろ?」
「っはあ!?そんなんじゃねえーし!ただ、道にでも迷ってんのかなあと思ってよ〜」
彼が小さな動揺を軽口でごまかしたことに、アレクはぴくりと眉を動かした。
じゃあ、とアレクが顔を上げる。
「薪拾うついでに、シェリルの様子を見に行けばいいんじゃないかな?」
アレクの言葉はあくまで提案だったが、どこか有無を言わせない命令でもあった。
その証拠に彼の顔は胡散臭いほどの「素敵な」笑顔だった。
*
「アレクのやつ…人をこき使いやがって…」
アレクに言われた通り、川までの道のりを薪を拾いながら歩いていく。
「あ゛〜、めんどくせぇ〜」
ふわあ、と大きな欠伸をひとつつく。
満月よりやや欠けた黄色い月が、歩く道を照らしている。
鼻歌を歌いながらルッツはのんびり川に向かって歩いていた。
さらさらと水の流れる音がする。
ルッツは木々の間から月の光に反射してキラキラ光る水面を見つけ、シェリルがいないことを確認した。
「おーい、シェリル!!おせーぞー!」
まだ水浴びをしていたらまずいので、少し離れたところから大声をだす。
「ありゃ…おかしいな…」
まったく返事がない。
ルッツは首を傾げ、もう一度シェリルの名を呼ぼうと息を吸い込んだとき---
バチャリと水の音がし、きゃっと微かな女性の叫び声が聞こえた。
えっ…
ルッツの脳裏にはモンスターに襲われているシェリルの姿が浮かんだ。
「あいつ…まさか…っ」
咄嗟に持っていた薪をそこらに投げ捨て、腰から短剣を抜く。
それと同時に木々の間を抜け、川辺に飛び出した。
「シェリル!!!」
「ルッ…!!?」
そこには、
腰から下が川に浸かった、裸のシェリルの姿があった。
*