かいたもの*

□くすぐる
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「髪、のばさねーの?」

「…え?」

ルッツのあまりにも突然な問いかけに、シェリルは間抜けな声を出してしまった。




今日はいい天気だった。
それに誘われるように、アレクたちは各々外に出掛けている。
しかし、昼寝をしていたルッツと、銃の手入れをしたかったシェリルだけはアレクたちの誘いを断り、宿に残っていたのだ。

「なによいきなり」

狭い宿だったため、必然的に旅のメンバーは一つの部屋に泊まることになり、つまり今現在シェリルとルッツは個室に二人きりだった。
しかし、ルッツは窓から入る優しい太陽の光を浴びながら、スヤスヤと小さいベッドで眠っていたため、今、話かけられるまでは会話という会話がなかった。

「アンタ、寝てたんじゃないの」
「今起きたんだよ…」

ルッツはベッドで寝た体勢のまま掠れた声で呟いた。けだるげにごろんと体を横向きにし、椅子に座って銃の整備をしているシェリルを見やる。

「髪、女って長いのが当たり前だろ」
「なにそれうざい、そうゆうのって偏見よ」

整備の手を止め、シェリルはルッツを睨んだ。
いきなりこいつはなにを言い出すんだ。

「ヘンケン…?」
「…バカ。なに?寝ぼけてんじゃないの?」

そうかも、と呟くルッツのとろんとした顔が温かい陽に淡くあたり、ずっと幼く見える。
そんな彼にすこしどきりとした。

「顔洗ってきなさいよ、バカが更にうっとうしいわ」
「にゃにお…」

シェリルはこころの微かなざわめきを隠そうと、再び銃の整備に取り掛かる。もうルッツからは顔を背け、ひたすらにオイルを含んだ布で銃身を磨いた。

「あー…確かにアイテム協会に依頼してたやつ、もう出来てる頃だろうな」

シェリルの背後でギシリとベッドが軋み、立ち上がったルッツが部屋の出口に向かって歩き始めた。そしてちょうどシェリルの後ろを通るとき…

「俺は」

ぱさり

「長いほう好きだけどな」

ルッツの細く長い指がわずかにシェリルの首に触れ、すっと後ろ髪を撫でた。




バタンと扉がしまり、ルッツが部屋を出て行く。
一瞬の出来事だった。シェリルはゆっくりと油で汚れた手をうなじに持っていく。なぜか自分の鼓動は早鐘を打っていた。

「なんなの…ばーか」

妙なくすぐったさに襲われたシェリルの首からじわりと熱が広がり、気づけばその顔は真っ赤になっていた。



【end*】
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