長編
□命の花
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翌日事務所でHIROさんに呼ばれ、社長室に行くとそこには昨日見た写真の人物と榊さんの姿があった。
「敬浩、ここ座って。」
「はい。」
HHIROさんに促されて隣に座り、二人と向かいに合わせになる。
「君とははじめましてだね、北村コーポレーション社長の北村隆です。」
「どうも、田崎敬浩です。」
「碧がとてもお世話になってるそうで、榊からいろいろ君のこと聞いてるよ……どうもありがとう、そして今回のことでは迷惑をかけて申し訳なかったね。」
「……お詫びはともかくあなたにお礼を言われる覚えはないです、碧ちゃんに対してしたことはすべて自分の意志でしたことですから。」
「そうかもしれなれないがね、結果的に君のおかげで一度は彼女も手術を受けるつもりになってくれたからね。私はどうしても彼女に手術を受けてもらいたかった、しかしいくら私や榊が説得しても彼女の決意が変わることがなくてね……まぁその後のことは昨日榊から聞いた通り、私に力を貸してもらいたいとHIROさんにお願いしたんだ。」
「碧ちゃんはMAKIだけじゃなくて俺にとっても本当に特別な存在だから、正直俺は彼女の病気のこと北村さんから聞くまで知らなくて知っていたらもっと早く……どんなに悔やんでも時間を戻すことはできないけど、これからのことは変えていける。俺も彼女の命救えるものなら救いたくて、少しでも役に立つならと北村さんの考えに協力しようと思ったんだ。」
そう語るHIROさんの表情はすごくつらそうで、彼女の存在がHIROさんにとってどれほど大きいものか分かる。
「しかし皮肉にもその事が裏目にでてしまって、もう彼女はHIROさんやあなたのことを信じてはくれないかもしれない。最後の望みを今彼女が一緒にいる篤志さんに託すしかほかない、私はもう絶対に娘を自分よりも先に亡くしたくは……」
「彼女はあなたの娘じゃない!」
北村さんの言葉に思わず大声でそう叫んでしまった。
「あぁそうだね、しかし彼女は私にとって本当に娘同様に大切な子なんだ。どうしても彼女の命を救いたい、そしてこれから先も私の側にいてほしい。」
「これからも彼女にまだ亡くなった娘さんの身代わりをさせる気ですか?」
「それは……」
「俺は彼女のことが好きです、好きな人がそんなことをさせられているのを黙って見過ごせません。」
俺の言葉を聞いて、途端に北村さんの表情が曇る……
確かにこの人は経営者としては優れていて、多くの人から慕われているすごい人なのかもしれない。
でもたとえどんなにすごい人でも、そんなことは俺には全く関係ない。
これ以上、彼女を誰かの身代わり扱いされることに耐えられなかった。