長編
□命の花
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あの夜から3日経ち、今日の仕事を終え夜の10時過ぎにマンションへと戻ってきた俺に榊さんにいつものように声をかけられた。
「田崎様、お帰りなさいませ。」
「あっ、はい。」
「碧さん、今日の昼過ぎに無事退院されましたよ。
「そうですか、よかった。」
「碧さんから田崎様が帰られたらこの前のお礼を言いたいので連絡してほしいと言われてるのですけど、連絡してもよろしいですか?」
「えっ、あっはい。」
「では碧さんに連絡いたしますね、このことがきっかけで少しでもお二人の距離が縮まるとよろしいですね。」
榊さんの優しい笑顔に見送られ、自分の部屋へと戻ってすぐにチャイムが鳴らされる。
きっと彼女だと思い、モニターで確認することもなく玄関のドアを開けた。
『あっ、お仕事で疲れてるのにごめんなさい。どうしてもこの前のお礼が言いたくて、田崎さんが帰ったら教えてもらえるように榊さんにお願いしてたの。』
「うん、さっき聞いたよ。この前もちゃんと言ってもらったし、気にしなくてよかったのに。体調の方はどう?」
『うん、もう熱も下がったし大丈夫。心配してくれてありがとう。』
そう言って頭を下げる彼女、半分断られるのを覚悟して彼女に言った。
「あの、よかったら中入ってちょっと話さない?あっ、もちろん無理にじゃないけど。」
『……じゃあちょっとだけ、お邪魔します。』
遠慮気味に俺の部屋へと上がってくれた彼女……
少し緊張気味にソファーに座り、俺の部屋を見渡す。
『男の人の部屋なのにすごくきれいですね、私の部屋よりよっぽどきれい(笑)』
「そんなことないよ、恥ずかしいからあんまり見ないで。」
『あっ、ごめんなさい。人の部屋なんて久しぶりだったからつい……』
「いやそんな謝ることじゃないよ、単なる照れ隠しだがら。あっ、今なんか飲み物、お茶でいい?」
『うん。』
彼女と自分の二つのマグカップを手に、彼女と少し距離を開けてソファーに座った。
「どうぞ。」
『ありがとう、いただきす。』
一口お茶を飲んだ後、何かを思い出したかのように彼女はまた俺の方を見た。
『そうだ、この前の答え……』
「えっ?」
『29……私の年聞いたでしょ?』
「あぁそれね、ってことは1984年生まれ?」
『うん、そう。』
「じゃあ、俺ら同い年だね。」
『えっ、そうなの?』
「うん、碧ちゃん雰囲気によって本当全然違うからいくつなんだろうってずっと気になってたから。あっ、名前で呼んでもいい?」
『うん、じゃあ私も田崎さんじゃなくて敬浩さんって呼ぶね。』
「たーくんでもいいよ♪」
『30近い男がたーくんって……あははっ。』
冗談混じりにそう言った俺の言葉に思いっきり笑う彼女……
その顔を見た瞬間、ずっと望んでいたものをようやく手にできたようなそんな思いだった。
彼女にもっと心を開いてほしい、この笑顔をいっぱい見たいそんな気持ちになった。