長編
□運命の人
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結局碧ちゃんからの連絡はこなかった。
携帯を埋め尽くすのは沙紀からの着信とメールばかり……
連絡の取れない碧ちゃんのことが気になるけれど、彼女に会う前にきちんと自分がすべきことをしなければ……
ホテルをチェックアウトして自宅へ戻る、もう仕事に行ったらしく沙紀の姿はなかった。
沙紀に「家で待ってるから仕事が終わったら来てほしい」とメールをして、部屋にある沙紀の荷物をまとめ始めた。
数時間後、玄関のチャイムが鳴りドアを開けると今までに見たことのない表情の沙紀が立っていた。
合い鍵も持っているのにそれを使わないでチャイムを鳴らした彼女……きっともう俺の覚悟に気付いているのだろう。
「仕事お疲れさま、入って。」
『……うん。』
リビングに入り自分の荷物がまとめられているのを見て、涙を零す沙紀……
『昨日の屋上での会話聞いたんだよね?』
「うん、ショックだった。」
『……傷つけてごめんね。今さら言い訳する気はないから、あれが本当の私。
私篤志と付き合ってずっと背伸びしてた、自分に自信がなくてそんな自分を知られたら篤志に嫌われるんじゃないかって怖かった。』
「沙紀……」
『私程度のモデルなんてこの世界いっぱいいるし、人気グループEXILE篤志の彼女にふさわしい女になるにはもっと有名にならなきゃって。なのにいつの間にかただ有名になることだけが目標になって、篤志に対する気持ちも徐々にさめていって……』
初めて聞く沙紀の本音、彼女の苦しみに気付いてあげることもできずこんなにも彼女を追い込んでしまった自分……
「ごめん、俺と付き合ったせいで沙紀にそんなつらい思いさせて。」
『篤志、そんなことないよ。確かにつらくなかったって言ったら嘘になるけど、でも篤志と付き合えたことが私の誇りでもあったから。その誇り守るために必死過ぎて自分を見失って、悪いのは私だから。』
彼女の涙をこの手で拭い、体を抱きしめる。
『信じてもらえないかもだけど、この涙は演技じゃないから。』
「ううん、信じるよ沙紀の言葉。」
『ありがとう、私もう一度初心に戻ってちゃんと頑張るから、仕事も恋愛も。篤志のことこれからも応援してるから、篤志も私のこと応援してて。』
「あぁ、応援してるよ沙紀。」
自分の荷物を手に部屋を出ていった沙紀……
恋人として一緒にいることはできないけれど、彼女の幸せを心から願った。