長編2
□Dearest
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高校卒業目前の18の冬、俺は最愛の人を守りきれなかった……
当時対立していた暴走族の奴らに彼女の美咲を捕らわれ、ようやく見つけ出したときにはすでに彼女の命の火は消えかけていた。
うす汚い廃墟でドラム缶に縛られたまま腹部から大量の血が流れ出て、その滴った血で地面には大きな赤い水たまりが出来ていた。
その光景はまさに地獄だった……
そしてその傍らには、必死にその傷口を押さえながら泣きじゃくる小さな少女が……
それは美咲が愛してやまない妹の碧ちゃん、その背中にはナイフで切りつけられたであろう大きな傷があり彼女もまた痛々しい姿だった。
すぐにふたりのもとに駆け寄り、仲間の隆二に救急車の手配をさせ、哲也に碧ちゃんのことを任せた。
そして縛られていた縄をほどき、美咲をこの腕に抱く。俺に気付いたのか彼女は閉じていた目を少しだけ開いて、つらそうに俺の名前を呼んだ。
『あつ……し……』
「喋るな美咲!大丈夫、すぐに救急車がくるからあと少しだけ頑張れ。」
そう言って、美咲の手を強く握った。
『篤志……碧のこと…お願い。私がいなく…なっても……あの子を…ひとりにしないで……あげて……』
「美咲……何言ってんだよ、しっかりしろって。大丈夫だから、そんなこと言うなよ。とにかく今は喋るな!」
自分の死期を悟って最後の力を振り絞り必死に俺に碧ちゃんを託そうとする彼女……泣きながら強く美咲の体を抱きしめる。
『お願い……篤志、そうするって…約束……して。』
俺の忠告を聞かず話し続ける彼女……俺自身美咲がいなくなることを受け入れたくなかったが、これ以上喋らせないようにするため首を縦に振った。
「分かった、約束する。絶対に碧ちゃんを一人にはしないから、何があってもあの子のことは俺が守るから。」
『ありがとう……篤志。…私篤志に……愛され…て……すごく幸せだった……よ』
そう口にしたあと彼女はゆっくりと瞼を閉じ、そして力の抜けた彼女の腕が地面へと落ちた。
「美咲!美咲!おい、しっかりしろよ!」
どんなに強く体を揺すり大きな声で名前を呼んでも、その後再び彼女が目を覚ますことはなかった。