世界一初恋 長編

□風
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・・・ポカポカ・・・
チュン、チュン

今日の空はとても良い晴天で太陽もポカポカしていて気持ちがいい。
しかも今日は仕事が休みだ、やることも特にない。

「あぁ・・・今日空飛んだら気持ちいーだろうなぁ」

でも昼間だから人目につくので飛ぶことはできない。

(人がいない場所か人目につかない場所なら飛べるのに・・・)

でもこんな都会にそんな場所ほとんどない。
家の中で浮いてるにしても狭いし風で物が飛んで行ってしまう。
それでなくても木佐の家には雪名の物もあるのだ下手に動かすことはできない。

「はぁ、どこか面白いところないかなー」

雪名はバイトだし、それにまだ午前中。
どこかいい暇つぶしがないかと木佐はぶらぶらと街を歩く。

サアアアア・・・

(ん?この気配は・・・まさか)

木佐はよく知る気配を感じ取りその気配がする方に向かって走り出す。

・・・クスクス・・・
どこからか笑い声が聞こえる。

(やっぱり、この声は)

たどり着いた場所は小さな空き地。
覗いてみるとそこには同じ会社の後輩であり、同じ能力者の仲間である小野寺律が何もないところから霧のような水を降らせ、
そこに生えている木や花と楽しそうに話しながら笑っている。
その姿を見て木佐は面白そうな顔をし律の元に駆け寄った。

「なにもない所でそんなことしてたら怪しまれるよ〜りっちゃんっ!」
「っ!!!わっ!・・・き、木佐さん・・・」

急に声をかけられ驚いた律はすぐに能力を止めて木佐の方を向いた。

「こんなところでなーにしてるのっ?随分楽しそうだったけど」
「あ、えっと・・・この間・・・この子達が雨が降らないのを困っていたので、雨を、降らせてあげたんです・・・」

律は途切れ途切れに説明した。

「あぁ、この間の雨やっぱり、りっちゃんだったんだ。
予報じゃ一日晴れって言ってたのにおかしいなーって思ってたんだよね」

「はい・・・で今日、時間あったから少し覗いていこうかと思って・・・」

「ふーん、まぁ住宅もないし、人通りも少ないし見られることはなさそうだけどね。
でも油断は禁物だよー誰が見てるかわからないんだからー」

「う・・・はい、今後気を付けます・・・て、木佐さん!言ったそばから何飛んでるんですか!!!」

「え〜だって今日いい天気だし、飛びたかったんだもーん」

自分で律に能力を使う事を注意しながら本人の木佐は気持ちよさそうに宙に浮いていた。
そのまま高く飛び木の枝に座りこむ。
そこで木佐は口笛を吹くようにフ―と息を吐く。その瞬間この空き地に心地よい風と先程まで律が撒いていた水と合わさりとても冷たい風へと変わる。


・・・涼しいっ・・・
・・・冷たい風だ・・・
・・・きもちいー・・・


この風に草花達が嬉しそうに囁いている。

「草花達がとてもうれしそう・・・」
「お、それはよかったー」
「木佐さん、俺も上登りたいんで乗せてくれませんか?」
「ん?いいよー」

木佐は風を操って律の身体を包み自分と同じ木の枝に降ろす。

「思ったより見晴らしいいですね」
「うんっ、あーあ、この景色雪名にも見せたいなぁ、
景色だけじゃなくて一緒に空を飛んで空から見る風景、あいつにも見せてやりたいな」

雪名の事だからきっと目を輝かせて喜ぶだろう。
きっと、1人で飛ぶのよりもきっと何倍も楽しいだろう。

「・・・そうですね・・・」

律も高野に見せたいと思っていた。
水の中の景色や、ここにある草花達の言葉とか・・・
それは、楽しいものや美しいものばかりではないけれど。
1つでも一緒に共感できるものがあればと、思ってしまう。

でも・・・
まだ言えない。
彼らを信じていないわけではない。
けれど、4人の中にある過去の嫌な記憶やトラウマはまだ彼らの心に残り続けている。
それに、危険なことに彼らを巻き込ませてしまうかもしれない。
いつかはバレる、話さなければいけない日がきっと来ると、わかってはいるけれど、それでもまだ彼らに知られるのは怖い・・・。


「・・・さてと帰ろうか、りっちゃん」
「そうですね」

ふわっ・・・

木佐は風で自分と律を包み込みゆっくり地面に着地する。

「そうだ、今からご飯食べに行かない?どうせなら横澤さんと吉野さんも誘ってさー」
「いいですねー、でも大丈夫でしょうか?二人とも予定とか・・・」
「んー大丈夫じゃない?まだお昼だしっ行こう行こう!」
「じゃあ二人に連絡してみますね」
「うんっ!俺今日は和食の気分だなー」

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