世界一初恋 長編
□一枚のハンカチU
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私は本が好きでよく学校帰りに本屋に通っていた。
そこの本屋にはかっこよくて優しい店員さんがいてその人はいつも、女の人に囲まれいた。
名前は雪名さんと言って、どうやらバイトさんのようだ。
私も初めて雪名さんを見た時一目ぼれした。
それからお店に行って雪名さんがいる時はこっそりと影から目で追うようになっていた。
でも他の人みたいに話しかけられないし、話もうまくないし、話しかける勇気もない。
それに、雪名さんにはもう好きな人がいるらしい。
そうだよね、あんなにかっこいいんだもん。
でも話せなくても、気持ちを伝えられなくてもただ彼の姿を見ているだけでよかった。
でもある日。
ピッ。
「いたっ」
本で指を切ってしまったらしく鈍い痛みがはしった。
「大丈夫ですか?」
「え?」
横から声をかけられ顔を向けるとそこには雪名さんの姿があった。
「本触ってるとたまに切れちゃう時ありますよね、よかったらこれ使ってくださいっ今、絆創膏持ってきますから」
そう言って一枚の綺麗なハンカチを渡してくれた。
私はしばらくその場から動けなかった。
「はい、どうぞ」
少しして雪名が絆創膏を持ってきてくれた。
それを緊張交じりに震える手で受け取る。
「あ、ありがとう、ございます・・・」
「いつも本買いに来てくれてますよね、ありがとうございます」
「え、なんで・・・知ってるんですか?」
「よくお見かけしているので、漫画、お好きなんですね」
私の事、知っていてくれた・・・・っ
信じられなかった。
話したこともないし、いつも影から見てるだけだったのに・・・。
どうしようっ嬉しい・・・。
初めてあんなに近くで話せて、優しくて・・・。
たったそれだけなのに、今まで隠れていた彼が好きだという気持ちが高まっていった。
「あっ」
雪名が仕事に戻っていってからしばらくそこを動けずにいたがふと自分の手元を見た。
ハンカチ・・・借りたままだった。
返すとき、また、話せるかな・・・。
彼女は雪名からのハンカチを優しく握りしめた。
数日後。
そのハンカチを雪名に返す事は叶わなかった。