世界一初恋 短編

□子守唄
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高野さんが最近夜中に魘される。
何の夢を見ているのかわからないが眉を寄せて苦しそうに小さく「・・・りつ、りつ」と呟くのだ。

高野さんが魘される度に「俺はここにいますよ」と囁いてからゆっくりと歌を口ずさんだ。
小さい頃眠れなかった時に母がよく歌ってくれた子守唄。
大の大人に子守唄というのもおかしいが、少しでも高野さんが嫌な夢を見ないように、俺が傍にいる事を伝えられるように祈りを込めて歌った。



毎日のように夢を見る。
目が覚めたら内容は覚えていないが、きっと俺にとってよくない夢なのだろう。
だが一つだけ覚えているものがある。
それは歌だった。
夢の中で毎回歌が聞こえてくる。その歌声を聞いていると何故だか先程まであった嫌な予感が消え、気が付くと夢から覚めているのだ。

そして今日、その歌を歌っていたのが律だということに初めて知った。

いつも目が覚めると律は眠っていたから今日まで気が付かなかった。
その歌声は、いつも夢で聞くのと同じ、心地よい声音で安心する声。


いつもお前が、俺を夢から引き上げてくれていたんだな。


律は目を瞑りながら口ずさんでいるため俺が目を覚ましている事には気づいていないようだ、

「・・・♪〜・・・・・・」
ピタッ

ふと律の口から歌声が止み、代わりにある言葉が呟かれた。

「高野、さん・・・大好き、です。
・・・ずっと・・・ずっ・・・と」

俺は目を見開いた。
律を見ると寝てしまったのか小さく寝息が聞こえてくる。


そういうのは起きてる時に言えよ・・・。


だがその言葉を聞いて確信した、きっともう悪い夢を見ることはないだろう。
お前が、俺の傍にいてくれるのなら。

「俺も好きだよ律。
ずっと、ずっと・・・愛してる」

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