黄と赤の瞳

□第4章
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空が茜色に染まり始めた頃―――……


小雪『っ飛影!!お帰り!』


飛影は 約束通り夕方に帰って来た
あたしは今まで寂しかったからか、約束を守って帰ってきてくれたことが余程嬉しかったからか、帰って来た彼に勢いよく抱きついた
唐突過ぎて驚きながらも、その腕や体はあたしを力強く、且つ優しく受け止める



飛影「っ…何故お前はそうやって直ぐに抱きつく!」

小雪『だって…飛影居なくて、何もやる気起こらないし…寂しかったし……あ、けど!ちゃんと修行はしたよ!!』


ほら、見て!
そう言って彼から離れ、刀を鞘に入れたまま振り回す
彼は盛大な溜息を吐いてから、小さく笑みをこぼした
そして、急に真剣な顔になった

いつもとは違う飛影に違和感を感じて名前を呼ぶと、彼はとても悲しそうな顔をした
そして、その小さな声でこう呟いた


飛影「小雪。…もうお前とは暮らせん。」

小雪『!!!』


突然のことだった
なんの前触れもなく、突然に


小雪『飛影………?何、で……』


別れの時が、来た



唐突すぎて短い言葉を紡ぐだけで精一杯だった
飛影は黙ったまま、何も教えてくれそうにない
そんな彼の態度は、あたしの気持ちをどんどん奈落の底へと突き落として行った


小雪『…邪魔?あたしが、嫌い?(違う…)』


どんなに酷いことを言っているかは理解している
なのに悲し過ぎて、辛すぎて……最低な言葉しか出てこなかった


小雪『……飛影も、あたしを捨てるの?(っこんな事が言いたいわけじゃない!!)』

飛影「違う!!!」


普段声があまり大きくない飛影が、突然大きな声を出してそれを否定した
自分の言葉がどれだけ彼を傷付けているのか、わかっているのに……

――――…一度開いた口は、止まらなかった


小雪『それならどうして?…教えてよ』


目元が熱くなるのが分かる
だけど、それを表に表せばもっと彼を苦しめることになる
そう思うと、絶対にそれを外には出せない


飛影「……しなければならない事が出来た」


飛影はそれ以上教えてくれそうにはなかった


飛影「…じゃあな、小雪」


飛影はバツの悪そうな顔をして洞窟を出て行った
彼が背を向けた瞬間、溜め込んでいたそれが堰を切ったかのように溢れ出した


小雪『っ!待って!飛影!!』


あたしは叫ぶように彼の名前を呼んで必死に追いかけるが、溢れ出した涙で視界がぼやけて何も見えない
それに、足の速い飛影に追いつける訳がなかった



それでも、必死に追いかけた

どんなに足が縺れても――――……

どんなに周りの木や石にぶつかっても――――……


無我夢中で、森の中を走り続けた






それでもやっぱり、飛影には追いつけない
暫く走っただけで飛影の姿は、見えなくなってしまった


小雪(なんで…っ折角 飛影と居て楽しいって、生きててよかったって…そう思ったのにッ!)


目から溢れ出す涙が止まらない
走り過ぎた足は震え、いたるところに擦り傷やかすり傷ができていて、ヒリヒリと痺れた
だけど、それらが却ってあたしの胸を締め上げる
夢ではない、現実なのだと……




全てを無くしたような感覚になった


飛影との暮らしが生きる理由だった


帰る場所だった



たった一つしかない自分の居場所だった―――……



小雪『生きる居場所も、理由も、価値も無い……残るは』




――“死”



丁度横には交通量の多い山間の道路
世界が、あたしの死を望んでいるかのようだった




小雪(…バイバイ、飛影)




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