荒神狂想曲

□願望
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いくつ満月を見ただろう。閉じ込められた心の瓶から、巨大なスクリーンを見上げる。昼間は眠くていけないから、夜にしか風景は見られない。時折パチリとスクリーンが瞬いて、揺ら揺らと辺りを忙しなく映す。
(ああ、アラガミ)
映像が固定したと思えば、次はアラガミが現れた。見た事のないアラガミだ。黒く雄々しい体に炎を纏い、両の手から剣を出す。
(知ってる、このアラガミ)
「お前、リンドウだな?」
突如、自分の声がスクリーンから響いた。驚いて目を見張ると、昔のアクション映画の様に画面が揺れ、そのアラガミの胸に自分の手が添えられた。
次の瞬間、バァッと体が強い何かに引き寄せられた。引力により目を反射的に閉じ、次に開けるとそこは黎明の都市の、あの場所にいた。リンドウが消えた、あの場所だ。
「アリア、か...?」
「リンドウ大尉」
「...そうか、お前...アラガミになっちまったのか」
「詳しくは乗っ取られた、だよ」
「ああ、成る程な」
「ねえ、大尉」
「何だ」
「帰りたい」
「...無理だな。お互い、腕輪を失った。アラガミ化の進行も進んじまった...どう考えても無理だ」
(本当に?)
壁に背を預け、諦めた顔をするリンドウに、声を出さずに問いかける。不可能は、可能になる。その力を持った部下が、リンドウには居るはずだ。
アリアが口を開こうとした時、また強い引力に引っ張られた。目を閉じて、開けるとそこは瓶の中。ああ、またここかと項垂れ、白んできた空と去っていくアラガミを見送りがら目を閉じた。


「リンドウさん、お帰りなさい!!」
新人...いや、隊長のユウにアラガミから助けて貰って、アナグラは騒然としていた。俺がMIAになってからひとっつも変わってない我が家に、安堵の息を吐く。
姉上に怒られ、色んな奴に泣かれて...だが、その中に俺の見知った顔がなかった。アリアだ。どこにいる?
うつらうつらとしていた記憶の中で、あいつは俺と会話をした。確かにそうだ。あいつの言葉はしっかり俺の耳に残っている。
(帰りたい)
あの時、俺はアラガミから戻れるとは思わずに否定の言葉を吐いてしまった。だが、今なら言える。帰れる。あいつも苦しんでるなら、解放してやりたい。
「ソーマ」
「何だ」
「アリアはどこにいる?」
「...来い」
祝いラッシュの中、俺はソーマに連れられて、アリアの部屋に入った。入ったのは初めてで、何というか...あー...筋トレ用の物が多いなあ。まあ、あいつらしいわな。
「アリアの腕輪だ」
「...やっぱりかあ」
部屋で見せられたのは、持ち主を失った腕輪。ぽっかりあいた穴は、あいつの心の様だ。いや、それともソーマか。
「お前にだけは言っておく。あいつは一度俺と接触した」
「何!?」
「あの時の俺の意識ははっきりしていなかったから、場所は覚えちゃいない。が、あいつは俺に帰りたいと言った」
「...お前が帰ってこれたんだ。アリアも連れ帰れるはずだ。リンドウ、俺は引き続き捜索するが...手伝ってくれないか?」
「言われずとも、可愛い部下の為だ。喜んで手伝うぜ」
さあ、ソーマがこんなにやる気なんだ。全力出さねえとなあ!

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