荒神狂想曲

□空蝉
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アリアがアラガミの声に耳を貸しかけたあの日から、段々と様子が変わっていった。虚ろな目になって虚空を見つめる事が多くなり、呼びかけると言葉になっていない生返事が帰ってくるようになった。その上、虚ろな時の記憶は一切ないようだ。
「アリア、ココアいるか?」
「んー...」
毎日アリアの好きなココアを持ってきては、目を覚まさせようとするが、失敗に終わる。初めのうちはすぐに目を覚ました。しかし段々と反応が鈍くなり、目の前で手を振っても叩いても反応しなくなった。唯一音には反応するようで、こうやって生返事が帰ってくる。
「...いつまで続くのでしょうか」
後ろでシオと遊んでいたアリサが悲しそうに言う。おっさんもコウタも眉を下げる。
「ずっとこのまま、という可能性が高いね。最悪、アラガミとなって君たちの手で...」
「やめろ」
「ソーマ...」
「帰ってくる。帰ってこないなら、連れ帰るまでだ」
アリアの手を握り、解かれた髪を撫でて研究室から出る。研究室の外には、カノンとジーナがいた。こいつらはアリアと仲が良い。身を案じるのは当たり前だ。
「今日は?」
「クッキー、お作りしたんですけど...」
「...また後でにしてやれ」
「...っ」
ジーナたちを研究室に入れるのは、アリアが元気な時だけ。ジーナたちが来るときは、シオはアリサと静かに別室で待機だ。アリアが情けない姿を見られるのは嫌がるだろう、と理由を付けて、入れないようにしている。アリアを良く知る二人はすぐに納得してくれた。
「アリアにうってつけの任務が沢山あるのにね。残念だわ」
「お菓子、一緒に作るっていう任務もまだ果たせてません」
ジーナは自分の悲しみを認めないようにこうやって高飛車に振る舞うが、表情は苦しそうだ。カノンは言わずもがな。
アリアは俺と違っていい仲間を持った。こんな仲間を置いて逝けるのか?

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