荒神狂想曲

□贖罪の街
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まさか、リンドウ大尉がシックザール様の身辺を探っているとはね。いやまあお父様達も「ヨハンは夢が宇宙並み」と言っていた。リンドウ中尉の言っていた事、あながち間違いではない気がする。
「さ、今日も守ろう」
今日は何だか風が静かだな。
だが蒸し暑い。訓練のせいで穴が開きまくってボロ布同然の服を着る。ズボンも同様、ナイフで切りつけられて徐々に広がった穴が幾つもある。風通しが良くて逆に助かる。
「ヒバリ、今日も適当にぶらつくので宜しく頼む」
「かしこまりました。お気をつけて下さいね」
まだ太陽が顔を出していない、空が紺色の時に私は出かける。
空気が澄んでいるときは、アラガミがどこにいるのかよく分かる。独特な香り、唸り声...人が起きていない静かな空間でこそ私は行動できる。
それに、力を発揮しやすい。誰も見ていないときに存分に暴れる事ができる。
「ヴァジュラか」
今日の一番の犠牲者...犠牲アラガミ?はヴァジュラ二体。
「さあ、その熱を私に下さいな」
高台から飛び降り、ヴァジュラの目の前まで駆ける。
私に反応してマントを広げて威嚇する姿はとても美しい。電流がそれを這う様子もとても素晴らしい。殺すのは惜しいが、人民のためだ。悪く思うな。

「安らかに眠りなさい」
最後の雄叫びをあげて倒れるヴァジュラ。少し手間取ってしまった。まだ日は少し頭を見せた程度だ。
「次は...向こうか」
コアを回収し、ふらりと香りを辿る。見つけて掃討...恐らく、ヒバリのモニターにはアラガミ反応が次々と消えていくのが映されているのだろう。
「ん、もう日が昇っていたのか」
『アリアさん、贖罪の街付近に多数の大型アラガミ反応あり!現在、現場には第一部隊がいますが、あまりにも戦力に違いができています。急いで向かって下さい!』
「了解した、今から向かう」
よくフラフラとどこかに行ってしまう私にだけ、涙目のシックザール様直々に配布された無線に、ヒバリの焦った声が入った。
しかしまずいな。今いるのは嘆きの平原だ。贖罪の街から少し遠い。全力疾走で間に合うかどうかだ...。
「クソッ!無線を全員持っていれば...!」


どれだけ速く走ったんだろう。息が上がり、足に乳酸が溜まって重くなって躓きかける。
「まっ、にあった...!!」
速く、早く、はやく!と叱咤し、ようやく目的地に着いた。リンドウ大尉、アリサ以外の全員が何体ものプリティヴィマータを前にして尻込みしている。
そんな彼らの前にブレーキをかけながら躍り出て、素早くスタングレネードを地面に叩きつける。
「現場報告!!」
ゼェゼェと息を弾ませ、掠れた声で大声を出す。
そのときだった。
「イヤァァァァァアアアア!!」
恐らくリンドウ大尉に付いて中にいたアリサの声だ。それに続いて銃声、轟音。サクヤが慌ててそこに向かう。
中の現状はよくわからないが、スタングレネードの効果が切れたプリティヴィマータをバスターで吹っ飛ばしていく。ソーマとユウも同様で、コウタは援護に回った。
「アリア!」
「ソーマ、ユウ、しばらく任せる」
「任せろ」
「オッケー!」
リンドウ大尉に呼ばれた。マータは三人に任せ、中に回る。現状は酷かった。恐らく、先程の轟音は天井の岩が落ちた音だった。入り口は塞がれ、天井を落としたアリサは錯乱している。加えてリンドウ大尉はその岩の向こうだ。サクヤも不安で瞳が揺らめいている。
「リンドウ大尉!」
「アリアか!命令だ!全員を連れて撤退しろぉ!」
「嫌よ!!」
「サクヤ、」
「サクヤ!これは命令だ!アリアの指示通りに撤退しろぉ!」
リンドウ大尉の命令。上官の命令。
ビリッと脳に刺激が走った。これは昔、まだひよっこだった私が忠実に命令を遂行するときの感覚だ。
そう、上官の命令は絶対だ。
「アリア...!」
サクヤがか細い声で私の名を呼ぶが、それを一瞥して背を伸ばす。
「...リンドウ大尉の命令を遂行いたします。サクヤ衛生兵、アリサを連れて直ちに撤退せよ。退路は開く」
「嫌...そんな、アリア...」
「サクヤ衛生兵、戦場に私情を持ち込んではいけません。...リンドウ大尉は帰ってこられます。私も退路を開いたのち、リンドウ大尉を連れて戻ります」
「サクヤさん、行こう!このままじゃ共倒れだよ!!」
どうやら押されはじめているようだ。コウタがリロード途中にサクヤに声をかける。
...アリサはいまだうわ言のように謝罪を繰り返している。まさにこの状況は阿鼻叫喚。
「リンドウ大尉、持ちこたえていてください!...総員、撤退!!退路は私が開く!!」
「サンキュー、アリア。サクヤ!配給ビール、取っといてくれよ!」
「アリア...」
「ソーマ、行け。こいつらは任せろ」
「...死ぬなよ!」
もう一度スタングレネードを使い、ソーマ達を逃す。アリサの手をコウタ、サクヤの手をユウが引いて走っていく。
「...女同士、仲良くしましょうよ」
獲物が多数いなくなり、怒りで活性化する婦人方。最も、アラガミには性別なんてないのだが。

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