荒神狂想曲

□甘えろ
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リリィさん...アリアの母...に手招きされた後、ベッドに腰をかけてマイケルさんと一緒に昔の話をした。
アリアと初めて会ったあの日からの出来事全てを。周りに言われたことや俺の愚痴を聞いてくれて、言葉が詰まった時は背中をさすって泣いてもいいと言われた。
溜まっていた涙が溢れて、リリィさんの肩を濡らしてしまった。マイケルさんには頭を撫でられて更に泣いた。こんなに泣いたのは初めてかもしれない。
「これからは大丈夫よソーマくん。アリアがいるもの。痛みを分かち合いなさい」
「そうだぞ。アリアなら受け止めてくれる。たまに胸でも借りて泣け。スッキリする」
「...ああ」
鼻をすすり、乱暴に涙を拭く。ちょっと痛い。
そんな見っともない姿でいたら、さっきユウと荷造りをしに行ったアリアが背中に何かを隠しながらこっちに戻ってきた。後ろでユウが造り終えた荷物を持って、俺を見てニヤリと笑った。何だあいつ。
「ソーマ、泣いたのか?目が真っ赤だ」
何かされるな。そう思ったが、アリアがまず俺の涙の跡に気づいてそれをなぞった。
「...まあ、ちょっと」
「そうか、なら話が早い。ソーマ」
「!」
ゆっくりと胸の前に出されたのは、アリアの雰囲気に似合わないピンク色のクッション。その真ん中にデカデカと刺繍された「HAG ME!」の文字。ハグ。...ハグ、してくれ?
「うん、期待通りの表情だ。すまんな、ソーマ。はじめはからかうつもりだったんだが、泣いたとなれば話しは変わる」
「...は?」
「あらあらあなた、アリアがソーマくんに甘くなってるわ」
「良いことだ」
待て、おい、おいユウ!お前さらにニヤけてんじゃねえ!
待ってくれ、アリアの言いたいことが分からん。からかう?話しは変わる?
「なあ、ソーマ。お前は不器用だ。私ではお母様のように上手くお前の話しを聞いてやることが出来ない。しかし側にはいれる。ソーマ、私はお前の気が沈んでいると思ったらこれを持って部屋に行くから、私をハグしてくれ。そして言いたいことをこの枕に言え」
「...どう、いう」
「さっき、悪いが盗み聞きをさせてもらった。お母様の言う通り、痛みを分かち合うことが出来る。お父様の言う通り、胸を貸すこともできる。私なりにお前に甘える。だからお前も甘えろ。私達は兄弟で親友だ。助け合いも必要だろう?」
「イイハナシダナー」
「黙れユウ」
「ごっめん」
クソ...何なんだ!息は詰まるし胸は苦しいし...嬉しい、し...。
「ほら、ソーマ」
ズイ、と枕を俺の顔の前に突き出す。それに誘われるように俺は枕ごとアリアを抱きしめた。熱い耳を隠すように、いつの間にか脱げていたフードを被った。
「うん、よし」
枕を持った本人はそれでいい、と背中に手を回してぽん、と一回背を叩いた。
...マジで何なんだ。恥ずかしい。

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