荒神狂想曲

□適合試験
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春麗らか。アラガミが増えてからは、春を告げる花や鳥はいなくなってしまったが、空気の暖かさが春を告げている、絶好の狩り日和だった。
そんな中、ビシリと軍服を着込み、鉄が仕込まれているであろう厚底ブーツを鳴らしながらエントランスにいるオペレーターである赤毛の女性、竹田ヒバリに爽やかな笑みを向けた。
「神機適合試験を受けさせられるアリア・ガルシアだが、連絡は届いているだろうか?」
「ええ、お伺いしております。その前に、支部長が少しお話をしたいと仰っていましたので、そこのエレベーターから役員区画に行って、その突き当たりに行って下さい」
「了解した、感謝する」
ヒバリの案内に従って役員区画に行き、如何にも支部長室だという雰囲気を醸し出している扉の前に立った。
「新型神機適合候補のアリア・ガルシア、到着いたしました。入室の許可を願います」
『入れ』
「はっ」
プシュン、と開いた扉を抜け、目の前に鎮座している支部長、ヨハネス・フォン・シックザールの机の前まで近付いた。
「久しいな。...母に似て、美しい容姿だ」
「恐縮です、シックザール様」
「そんなに謙遜せず自分に自信を持ちたまえ。...そう言えば、三年前からそちらの軍の噂をよく聞くようになったが?」
「私が指揮隊長、訓練長に任命されてからですね。フォーマンセルで外部居住区のパトロールをさせ、シフト外の者は基礎訓練をみっちりさせていました。残りの時間は好きにさせていましたので、不満は殆ど無かったんです」
「成る程。兵の気持ちを汲み取ってカリキュラムを立てた、と」
「はい。幾人かそれに反発した者も勿論いました。しかし、侵入したアラガミに対して実力を十分に発揮できず喰われましたが、基礎訓練をこなしていた者がフォローに回ったところ、いつも以上に動きが良く、非戦闘員の誘導が上手くできたと評価を貰いましたので、皆が従ってくれるようになりました」
「そうか。上手く生活できていたようで安心したよ。ソーマも時折様子を聞いてきていた」
「え、そうだったんですか?...会いに来てくれれば歓迎したのですが」
「気恥ずかしかったのだろう」
暫く穏やかな時を堪能した後、ヨハネスに業務連絡が入った。どうやら試験用神機の設置が完了したらしい。
「では、手間を掛けてしまうが一度エントランスに行き、オペレーターに出撃ゲートを開けてもらえ。申請は私が行っておこう」
「了解いたしました。では、失礼いたします」
支部長室を退室し、エレベーターに乗り込み、ヒバリと顔をまた合わせた後、奥にある出撃ゲートをくぐった。出撃ゲートの向こうには多くの神機が並び、整備士がちょこまかと働いていた。汗と油、鉄の匂いが鼻をつき、軍にはない匂いだなと笑みを浮かべた。
そしてそこを素通りし、ヒバリに言われた場所へ足を運んだ。既に扉は開いており、中へ入ると自動的に扉が閉まった。
「(成る程、失敗した時に被害を出さない為か)」
初めて見る設備に若干ワクワクしながら、中心に置いてある台が気になった。一部が上下に分かれており、その奥にはケースがあった。上下に分かれてある所を見ると、赤い腕輪のようなものが付いていた。
成る程、ああやって皆の腕に付いているのかと、これからされる事を冷静に考えていた。
『待たせたな』
目を閉じて緊張を和らげていると、マイクを通してヨハネスの声が響いた。心の準備がなんたらかんたらと言ったヨハネスの言葉はアリアの耳を素通りした。
アリアの耳は重要なことしか脳に届けない。だから、ヨハネスが言ったことなど微塵も覚えていない。脳に残っているのは、腕輪に腕を乗せる。それだけだった。
情報を受け取ったアリアはブーツを鳴らしながらゆっくりと神機に近づいた。
「(なんの変哲も無い腕輪だが...いや、あの高さだ。反射で避けぬようにしなければ)」
そっと腕を乗せ、持ち手だけ見えている神機を握った。ついでに目も逸らした。見ていれば避けてしまいかねない。
だが腕輪が振り下ろされる瞬間、どうしようもない飢えに襲われ、鳥肌がたった。それを抑えるかのように腕輪が接着し、手首からの痛みが電流のように脳を刺激した。
叫びを堪えると同時に汗が噴き出す。叫べばいい。誰もが叫ぶ。こんな痛み、今まで体感したことがないのだから。今いるアラガミ以上に体内を蝕まれ、肉体が作り変えられるのを感じる。
「(これが、ゴッドイーターの最初の試練か)」
蝕む感覚がなくなるとケースが開き、持ち上げることが可能になった。
...通常の数倍の大きさだ。
『合格、おめでとう。今日から君はゴッドイーターだ』

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